第六百四十一夜『今日のお昼はフードコートで自家製お弁当を-Abyssal actors-』
2024/04/27「空気」「金庫」「きれいなツンデレ」ジャンルは「大衆小説」
あるフードコートにうら若い少女が一人で弁当を持ち込んでいた。
フードコートには飲食物の持ち込みは不可だと注意書きがあったものの、そもそもフードコートはまばらに空いており、席は半分も埋まっていない様子で、これでは注意する人間も注意をしようと
少女の事情は見ただけでは分からないが、今日は授業が半ドンで終わってフードコートで一早く弁当を食べて合流をするところだろうか?
それならば、友達と一緒に食べれば良いのではなかろうかだの、しかし至って普通の弁当にしか見えないそれを恥じている様子も
その時だった。少女はまるで窒息したかのようにみるみる顔を青くし、苦しみ始めた。
顔を青くして苦しんでいると言っても、食べ物を喉に詰まらせたわけではない。
少女はもがき苦しんでいるかと思うと、まるで
「大丈夫か君!?」
近くに居た人が少女の意識を確認するが、その人物の顔は暗い。
「誰か! えっと、救急車? 誰か!」
「落ち着いて下さい、私が今救命センターに連絡しました!」
近くに居た人物が慌てふためく中、更に別の人物がなだめる様に言った。
何せ少女が噴水の様にゲロを吐いて倒れるわ、それを心配した人物が慌てふためくわの大騒ぎなのだ、恐慌は伝播し、周囲の人々は何事かとガヤガヤと野次馬根性を見せつけた。
「大丈夫ですか? 救命センターから参りました! そこのあなた、大丈夫ですか? ……これはよくない! すぐに病院に連れて行かねば! 大丈夫、安心してください、すぐよくなりますからね……」
救命センターから来たと名乗る人達は、少女の口元と手首を手早く確認すると、
残された人々はインパクト抜群の今の出来事について互いに話し合い、そして吐しゃ物のぶちまけられたフードコートを汚らしがりつつ、フードコートから
「大丈夫ですか? すぐよくなりますよ、今病院に向ってますからね……意識を取り戻してください」
救命センターから来たと名乗る人達の一人がそう言うと、担架の上の少女はむくりとさも何事も無かったかの様に起き上がった。
「誰にも怪しまれなかった?」
「ええ、勿論。主演のあなたの力でもあります」
起き上がった少女は周囲の様子を確認すると、先程まで自分に語りかけ続けていた救命士に質問した。
実は少女、最初に少女を心配して声をかけた人物、救命センターに連絡をした人物、運転手、救命士二人……即ちギャラリーや野次馬以外の全員は全員演技であり狂言。
フードコートの利用者は皆、ゲロを吐いて意識不明になった少女の救助という演目を本物と思い込んでみていた観客という形になる。
今一座が居るのは、救急車そっくりの
この商用車の偽装はシールで行なっているのだが、
ちょっと敷地内の死角で偽装は解けば、一般の車両に戻るのだから誰かにこの一連の
「で、どうだった? ギャラリーの様子」
「ええ、
「それはどうも」
一座は勿論、
「あのフードコートを
「ええ、観客の皆様、カシャカシャと音を立てて写真を
救命士役の人物はカラカラと乾いた笑いを小声で立て、主演の少女はそれをつまらなさそうに見ていた。
「それでは早速、依頼成功したので貰った前金で何か美味しい物でも食べに参りましょうか」
「俺は肉が良いな」
「私はお寿司が良い!」
「意見が割れるなら、ビュッフェにでもしましょう!」
商用車の中はちょっとした騒ぎで、先程まで意識不明者を運んでいる医療従事者だったとはまるで思えない。
「しかし、この手の不毛な依頼って
「そりゃあ、そうですよ。何せ人間というのは、理不尽な目に
* * *
人気がまばらなフードコートで、弁当を持ち込んでいる少女が居た。
周囲の人達は特にその様子を気にするでもなく、各々食事を
ひょっとしたら、今フードコートで飲食をしているあなたのすぐ近くに居る弁当を持ち込んでいる人物、彼女ないし彼は敵対企業から依頼を受けてやって来た破壊工作かも知れません。
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