第六百三十九夜『僭称する人-Pretender-』
2024/04/26「前世」「裏取引」「魅惑的な才能」ジャンルは「時代小説」
あるところに
漫談と言ってもただの漫談でもなく、彼の漫談は前世の体験談という
「という訳でですね、本当に時の帝が煮え切らないクソ野郎なのなんなの! 私前世で、迷える民草の心に
しかしこういう漫談には野次がつきものである。彼が漫談を繰り広げていると、野次が嘴を突っ込みやがる。
「おい坊さん! そんな偉い坊さんなら、なんで成仏しないで生まれ変わってるんだ? テキトーな事言ってんじゃねーぞ!」
しかしそこは漫談家、口の立つ者でなければ成り立たない。
「ええ、当時の唐は鎖国をしていましたからねえ。私が留学しに国を出たのは、密出国という事になる訳です。これ即ち、悪法もまた法なり。唐の法を無視した私は『もう一周頑張ってね』と現世に居残りを命じられた訳ですねえ」
これには一本取られたと野次の方が拍手をしだし、他の客も大いに沸いた。
漫談家はこの様に、大抵の野次は受け流すか利用する。客の方もその事を分かっているので、ちょっとした野次をガンガン飛ばす。漫談家と客の間にはちょっとした信頼関係すら有った。
ある時彼は、
またある時は、自分の前世は戦国時代の武将だと騙り、
またある時は、自分の前世は宮仕えをしていたまじない師だと騙り、風を読み雲の動きを予測する事にかけては地元で一番だったおかげでヘッドハンティングされたが、いざ京に招かれたら他に能の無い悪のヘッポコまじない師扱いされてしまった事、悪名ばかり売れてしまってありがた迷惑だと愚痴を吐いた。
聴衆は彼の漫談を、本当に体験した事であるかの様に語る事、体験談であるかの様に愚痴を吐く事に
何せ誰もが知ってる伝承の人物が、上司の愚痴だの失敗談だのを語ってトホホと
ところで、その漫談家と聴衆を遠くから見ている影が二つあった。
「被検体ロの様子はどうだ?」
「ダメだな。自分が何者か分からず、今日も芸人のマネ事をして日銭を稼いでいる。あの様子では、まじないは失敗だと報告せねばなるまい」
「この日ノ本を守る『日ノ本の黒船』に乗る人員には遠く及ばないか」
「この調子で、英傑の記憶を持ったまさしく英傑の生まれ変わりを造るなんて本当に出来るのか?」
「黙れ黙れ、お上の言う事に非を唱えるな。命じられたから
「そんなんで本当に出来るのか? 日ノ本の黒船とかいう、理想の船員」
「……次の被検体を見に行くぞ」
「被検体イの様に、我々が植え付けた前世の記憶でオツムが煮えて物くるいになってないと良いのだがな」
漫談家は、そんな会話をしていた影達がその場を去った事を知ってか知らずか、次なる漫談をし始めた。
「今から話すのは、私が実際に前世で体験した事なのですが……」
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