第六百二十八夜『魔法の研究-L'apprenti sorcier-』

2024/04/13「東」「クリスマス」「燃える魔法」ジャンルは「大衆小説」


 時は現代、シーズンはクリスマス、ある場所に必死に課題をこなしている学生が居た。

「ああ、くそ! 全然捗らないぞ! どうしよう?」

 学生がやっている課題はいわゆる自由研究で、そして学生は魔法使いだった。

 それなら宿題なんて魔法でちょちょいとすればいいと思うかも知れないが、彼は魔法を修める途中の学生。あまり難しい魔法は使えないし、そもそも一人の人間が魔法で何でも出来て、そんな人種が弟子をとって技術者を増やしていては社会的混乱が発生する。


 結論から言うと、魔法使いに出来る事は多いが、総じて一人の人間才能や技能として出来る範疇に収まる。

 どんな天気も必ず言い当てる魔法使いが東に居て、薬草で人間の心を家畜にする魔法使いが西に居て、どんな人間をも欲望に正直にさせる事の出来る魔法使いが南に居て、どれだけ他殺されても命を落とさない魔法使いが北に居た。

 しかし、その魔法使い達も魔法を使っていいからスポーツや競技で金メダルを取る様なパフォーマンスをして見せろと言われても、それは出来ない。

 身一つで徒競走の選手より早く飛ぶ魔法使いも、箒に乗ってジェット機よりも早く飛ぶ魔法使いも実在しえない。

 魔法とはそういう物だった。


 話を本題に戻すと、学生が今やっている課題は『自分がすごい魔法使いなら、どんな事をするか』いわゆる技術レベルや、発明などを題材にしたレポートを行なえというのが先生方からの要求だ。

 魔法のすごい発明のアイディアを書くなり、過去の魔法使いの発明をまとめて書けと筆に命じて書かせていいかも知れないが、そもそも学生の使う魔法で筆を動かしてもマトモな文章なるかも疑わしい。

 魔法使いの弟子が課題をやって欲しくて無機物に魔法をかけたとしても、課題は完成しないし、家は水没と昔から決まっている。

 ならば素直に魔法の発明や新技術を考えるなり、過去の魔法使いの逸話を調べるしかない。

「ダメだ……考えれば考える程、どうやっても科学技術がノイズになってしまう」

 例えば、学生は静止電位を一気に動かして小規模な帯電や放電を起こす魔法が使える。

 この魔法を使えば、なんと! 髪の毛を逆立たせたり、水道の水を左右へ少し誘導が出来る!

 これが学問を修めて修練を積んだ魔法使いならば、半導体を絶縁体から導体に変えるなどの事は出来るだろうし、身近なところでは調理器具無しにフライパンで目玉焼きが作れるだろう。

 しかしそれが一人の人間魔法使いの限界だった。


 水の刃を飛ばし、肉を両断する魔法が存在する。

 中に研磨剤の入っていないウォーターカッターなぞ、肉しか斬れず、硬い鉱石は切れない。

 爆発を起こし、軍隊を一掃する魔法が存在する。

 破片の入ってない爆発なぞ、物や皮膚を吹き飛ばして良いとこ焼け焦がすだけ、破片や毒性物質を仕込んで肌に深刻なダメージを負わせなければ兵器として数段劣る。

 ハーブやキノコを用いた秘薬で、人体に不可逆の変性を与える魔法が古来より存在する。

 一度皮膚で触れれば最期の毒薬こそあれど、簡単な防護服を貫通して防護服すら毒物に変えて二次被害を次々起こす化学兵器には敵わない。


 人間とは、楽な方へより楽な方へと流れる生物である。

 即ち、魔法と言うのは科学の発展した現代には不適切な道と言えよう。

「それでも、俺は必ず魔法で大成してやるぞ……」

 学生はそう呻きながら、暗くなったので電気スタンドの電源を入れ、自分に喝を入れるためにエナジードリンクをグイと飲んで気合を入れた。

 何せ、魔法で明かりを灯し続けるよりも、疲労回復の秘薬を調合するよりも、科学技術の恩恵に与るが楽なのだ。

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