第六百二十一夜『きれいな海の澄んだ宝石-colombia-』

2024/04/06「光」「サボテン」「おだやかな山田くん(レア)」ジャンルは「指定なし」


 ある海の近くの町に、とてもきれいでんだ色とりどりの宝石が売られていた。

 これらの宝石は、海にあみを投げると海の幸に混ざって網にかかっており、どれも必ず丸く角が無い形状で見つかるという。

 町の人々はこの宝石を海の砂から産出した宝石だとありがたがり、そのまま売ったり、或いは削ったりしてアクセサリーや美術品にして売った。この宝石は硬いが加工し易く、削る事もねつで加工する事も簡単かんたんに出来た。

 こうして出来たアクセサリーや美術品は町の人々の手で売られており、海の宝石と称されて店に並んだ。海の砂や貝殻等と一緒になったアクセサリーやオブジェは、土産物店の定番の商品として観光客かんこうきゃくに大いに売れた。


 街のダイナーに二人の男女が居た。片方は少し背の低い亜麻色あまいろの髪の毛をふさにして歩兵用の剣をいた女性で、カリカリに揚がったエビフライを始めとした魚介料理に喜色を浮かべて舌鼓したづつみを打っている。もう片方は短筒たんづつげたせぎすの男性で、こちらはエビやカニのはらわたを和えたトマトスパゲッティを嬉しそうにフォークで突いていた。

「ねえねえ、思ったんだけどさ」

「スリーサイズなら、事務所を通してくれ」

 剣を佩いた女性は短筒男の冗談を無視し、質問を続けた。

「あの宝石って……だよね?」

「ああ、俺もそう思う。ただ、そんなひそひそ話をしても平気だと思うぞ。多分ここの人達は皆知ってるだろうし、気づいている客も多いと思う。インチキだと大声でめない分には、そうだと言っても許容されるだろうさ」

 短筒男の言葉に、剣を佩いた女性はのどから小骨でも取れた様な仕草を見せた。無論、魚介料理が喉に引っかかっていた訳ではない。

「そ、そうだよね! その程度で誰かから怒りを買ったりしないよね! いやー、うちとんでもない事に気が付いて、この事をおはかまで持っていかないといけないのかと思っちゃった!」

 そんな剣を佩いた女性の仕草をよそに、短筒男はカウンターの後方に置かれたテキーラのビンを見ていた。

「どしたの? お酒飲むの?」

「いやいや、飲まないよ。さっき土産物店で見た宝石、あの酒瓶と似た色だなと思ってな」

「ふーん……そっか。ところで、今回は買い付けとかそういう事するの?」

 剣を佩いた女性はどことなく楽しそうに、試す様に短筒男に対して言った。

「いや、いい。何というかな、が売れるのは、この場所まで観光に来てこの場所が好きになった人だけだ。を売る方だって、この場所が好きで何かと地元の所縁ゆかりの品だ! って、そう言いたがってる人だろう。今回は転売だの買い付けだの、そう言うのは一切無し!」

「ふーん、そうなの?」

「そうだよ。俺も地元愛じもとあいは強い方だし、感覚で分かる」

 短筒男は自信満々じしんまんまんに拳を握って語った。

「ふーん……そっか、でもこの場所が素敵っていうのはうちにも分かるかな。こういう観光地の町並みとか好きだし、お土産屋さんでああいう綺麗な宝石が売ってたら買っちゃいそう」

「まあいいんじゃないかな? 海の中で互いにぶつかって角が取れたガラス片なんだ、海の面した町で売る物としては十分風情がある」

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