第六百二十夜『便利なヘルメット-WATCH YOUR HEAD-』

2024/04/05「昼」「化石」「壊れた可能性」ジャンルは「ギャグコメ」


 テレビを点けると、威勢いせいの良い通販番組の司会がセールストークを立て板に水に止めども無く話していた。

「こちらのヘルメットをごらんください! バケツ状の兜の様に見えますが、その実折りたたみ式のヘルメットなんです! ご覧あれ、この様に簡単かんたんに一枚の板状に折り畳む事が出来ます!」

 そう言って司会はヘルメットを両のてのひらで、紙袋でも畳む様な動作でヘルメットを一枚のプラスチックの板にして、それをキーホルダーに取り付け、リュックサックに取り付けて見せた。

「ご覧になりましたか、この利便性! これまでも、折り畳み式のヘルメットはありました。しかしこれまでの折り畳み式ヘルメットは、その構造上こうぞうじょう組み立てのさいに力の要る作業でした!」

 司会は旧式の折り畳み式ヘルメットを取り出し、組み立てたり畳んだりして見せるが、露骨ろこつにかかる時間が異なる。

「ではもう一度、この様に新型折り畳み式ヘルメットはこの通り、カチリ、スイッチワンタッチでヘルメットの形状で固定されます!」

 ヘルメットをかかげて堂々とポーズをとる司会、わぁっと沸く会場のオーディエンス、番組は最高潮さいこうちょうと言った風だ。今現在司会は発泡スチロールせいの胸像を左手に抱えて、くだんの折り畳み式ヘルメットを被せるパフォーマンスをしていた。

「おっと」

 司会の手から折り畳み式ヘルメットを被った発泡スチロール製の胸像が滑り落ち、逆さまになって頭から地面にぶつかったかと思うと、カチリとボタンが音を立ててヘルメットはうすいプラスチック板になった。

 発泡スチロール製の胸像の頭部は粉砕され、粉微塵こなみじんになってスタジオの床に散らばった。

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