第六百十九夜『人に悪影響を及ぼすゲームの話-King’s bane-』

2024/04/04「月」「ロボット」「最悪の運命」ジャンルは「ギャグコメ」


「なりません! この月に生まれる王様のご子息は、将来ゲームの悪影響あくえいきょうを受けて王様をあやめるでしょう!」

 ある国の王様が預言を受けた。王様はこの預言を聞き、酷く肝をつぶした。何せ預言というのは神の言葉であって、絶対だからだ。

 本来ならば、ゲームの悪影響で人殺し、それも親殺しをはたらくなんて一笑に付すだろう。しかしこれが預言というのだから、絶対に外れる事はあり得ない。

 逆に預言者が乱心したのかも知れぬと、王様は疑いもしたが、しかしこの預言者は一度も預言を外した事も無ければ、先王の代からずっと王家に使えている忠臣。この忠臣を逆賊ぎゃくぞくとして追うならば、他の臣下や国民も王に逆心を抱きかねない。

 万が一つに預言者の勘違かんちがいや、解釈違かいしゃくちがいかも知れない。王様はそう考えて再三再四預言者に王子についてたずねたが、しかし預言者の言う内容は変わらない。

「ご子息をこの場で亡き者にせねば、王様は必ずやゲームの悪影響を受けたご子息に殺されます! これは預言であり、絶対です」

 王様は苦渋の思案を重ね、その末に剣を手に取って王子の足を刺そうとした。しかし王様も人の子、生まれたばかりの我が子の顔を見ていると、武器を握る手がどうしてもゆるむ。

(何がゲームの悪影響だ。余が子供を真っ当に育てればいいだけではないか!)

 預言は絶対なのだ、故に王様の考えはおろかしく見えたかも知れない。しかし、我が子の足を刺して亡き者にしようとする男の方が、ずっとずっと愚かしいに決まっているではないか!

 王様の決意はダイヤよりも硬かった。

 王様は王子を手厚く、きびしくもやさしく育てた。どんな人にも情を持って接する様、決して血や心の通わぬ青銅の様な人間にならぬ様、悪を憎む様、けれども人を許す心を持つ様に育てた。


  * * *


 オリンピックにある選手せんしゅが出場した。

 その選手はやんごとなき身分で、それでいて民や友好国のために身を粉にして働き、婚約者との仲も良く、醜聞しゅうぶんの類も無く、家族仲もとても良いし、それに加えて性格や性分も真面目で何事にも全力を尽くすという、紳士的なスーパーマンであった。

 そんな彼が円盤投えんばんなげの種目に出場し、しかし彼が投げた円盤えんばんが観客席に飛び込み、ある壮年男性に当たって死なせてしまった。

 オリンピックの試合ゲーム中の出来事であった。

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