第六百十七夜『嬉しい出来事ですね-twitter-』

2024/04/02「雷」「ガイコツ」「きわどい記憶」ジャンルは「指定なし」


 青い鳥が白い雲を背景に空を飛ぶ。

 町では頭の両端に電極が刺さった、ゾンビの様な物が突っ立っていて、同じ事を繰り返し呟いていた。

『悲しい出来事ですね。悲しい出来事ですね。悲しい出来事ですね』


 ゾンビの様なフランケンシュタインの怪物の様な物が町に立っているというのは、景観けいかんに悪いと言う人も居るかも知れない。しかし、この頭に電極が刺さったゾンビの様な物は、むしろ町の住民にとって気分が良い物だった。

「居たぞ! 野良のゾンビだ! 取り押さえろ! 殺してしまえ!」

 町の住民は頭に電極が刺さっていないゾンビを見かけると、この様にいきり立って網やら棒やらでゾンビを取り押さえる。何せ、街の人達にとって頭に電極が刺さっていないゾンビはひどく不快なのだから。

 住民は網や棒で頭に電極が刺さっていないゾンビを取り押さえたが、ゾンビは動きがのろく、そして特に不潔ふけつだったり伝染病を持ってたりする訳でも無く、捕獲ほかくは安全かつ簡単だった。ゾンビは総じて無害なのだが、しかし人々はこのゾンビを不快がって頭に電極を付けたがった。


『悲しい出来事ですね。悲しい出来事ですね。悲しい出来事ですね』

 頭に電極を付けられて同じ事しか呟けなくなったゾンビを、或いは棒で殴られ続けて身体がバラバラになってしまったゾンビを見て、街の人達はこれを良しとした。

「いやあ、これでいい」

「あの腹立たしいゾンビ共が、真っ当な状態じょうたいになるのは本当に気分が良いな」

「先生が亡くなった時など、特に酷かった。私はあいつらを皆殺しにしないと気が済みませんよ」

 町の人達が頭に電極が刺さっていないゾンビを不快に思うのには理由があった。これらのゾンビは、人が亡くなるとどこからともなく現れて、夜な夜な呟き声を出す。

『素敵な出来事ですね。素敵な出来事ですね。素敵な出来事ですね』

 ゾンビは無害だが、人間が死ぬと現れて喜びの言葉を呟いた。人が大勢おおぜい死んだり、多くの人に愛された人が死ぬと大勢ゾンビは現れた。

 これがどういう事かと言うと、地震で大勢人が死んだり、多くの人から愛された漫画家が死んだ時にはゾンビが大勢現れ、死者をあざけり笑う様な呟き声を出すのだ。そんな生き物が存在していては、民衆の心に安寧あんねいがあり得る筈が無い。

「そんなに死者が死んだのが嬉しいか!」

「この野郎! お前も同じ目にわせてやろうか!」

「お前の様な鬼畜生は二度と鳴いたり笑ったり出来なくしてやる!」


 その様になった。

 具体的に言うと、あるゾンビは首をへし折られ、あるゾンビは脳味噌のうみそにまで貫通する電極を取り付けられて『素敵な出来事ですね』と言う度激痛が走る様教育された。あるケースでは、ゾンビの頭に電極を付けてゾンビを殺すラジコンに改造したという話すらある。

 ところで、これまで散々ゾンビと呼んでいるゾンビの様な存在だが、どうやら人間でも死体でもないらしく、ゾンビの様な生き物と言うのが正しい。

 度々たびたび悪霊あくりょうやゾンビと同一視される妖怪いきものとして、以津真天いつまでやグールが挙げられ、これらは人間の死体に反応する妖怪ともされている。この便宜上ゾンビと呼ばれている存在も、恐らくは以津真天やグールに近い妖怪なのだろう。


 ところでこのゾンビの様な物を殺したり改造したりしても、直接何らかの罪に問われる事は無い。

 何せゾンビは人間じゃないし、ゾンビを愛護あいごする様な団体も存在しないし、何よりこのゾンビはゾンビと呼ばれているだけで、人間の死体でもないのだから罪に問われる理由が無い。

 何せ他人が死ぬ事を喜ぶ以外にする事が無い生物なのだ、そんな物を人間と認める訳にはいかない。

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