第六百十五夜『あなたにぴったりの時計-cinderella fit-』
2024/03/31「緑色」「メトロノーム」「ゆがんだ山田くん(レア)」ジャンルは「指定なし」
あるところに山田という困った男が居た。
何が困ったかと言うと、この山田という男は非常に時間にルーズなのだ。
まず朝は毎日寝坊する、待ち合わせには
「俺が時間に遅れたのは、良い時計が無いからだ! 俺にもピッタリの時計さえあれば朝は起きられるし、時間に遅れる筈も無い!」
この始末である。
ある日、山田は酒場で大いに時間を忘れて酒を呑んだ。すると辺りはすっかり暗くなり、帰る頃には町はすっかり眠ってしまっていた。
「あーくそ、調子に乗って呑み過ぎた。頭ははっきりしているが、どうにもうまく歩けん」
山田はその様な強がりを言っているが、彼の頭は
「しっかし、どこの店も閉まってるなあ。おい!」
そんな酔っ払いの独り言は誰も聞いていない。聞いていたとしても、酔っ払いが何か大声で
そんな酔っぱらった山田の前に一店だけ、やわらかな光を
「あの店だけやってるな……喫茶店か何かみたいにも見えるし、ちょいと
そう言いながら、勇み足で扉を開ける山田。
「あら、こんばんは。いらっしゃいませ」
店内には、
時刻は遅いが、店は普通に営業中の様だ。店内には様々な小物を展示した
「すみません、間違えました!」
そう言って山田が
「あら大変、良かったら雨宿りして行きませんか?」
いや、
「ありがとうございます。しかし……」
山田は言葉に詰まった。こんな小物屋に全く
「あら、その腕時計が気になるの?」
店主の女性は、山田の目線を
「ええ、まあ……」
「その腕時計はね、誰にでも合う時計です」
「誰にでも合う時計?」
山田は、店主の言葉に何とも言えないざわめきの様な物を覚えた。店主の勿体ぶった言いぶりに対して、彼は何かからくりが有ると感じ取ったのだ。
「ええ、フリーサイズでどんな人の腕にもピッタリと合う時計……というのは、その時計のオマケ。その時計は、着けるとどんな人でもピッタリと
「機械の様に、ですか」
なるほど、それは願ったり叶ったりだ。山田は時計を腕に着けた自分がキッカリ時間通りに動いている様を想像し、増々その時計に心惹かれた。
「面白い、それを一つ下さい」
どうせ腕時計を着けたところで、人間の性根は変わらないだろう。しかし、時間にルーズな自分の前に時間通りに動ける腕時計が現れたと言うのは、何か運命染みた物を感じてしまった。
「はい、かしこまりました」
腕時計の値段は、店の
「はい、どうぞ。お似合いですよ」
「うむ、ありがとう。これはいい!」
店主のセールストーク通り、腕時計は寸法やサイズの変更をせずとも山田の腕にピッタリと合った。
気が付くと、雨はすっかり止んでいた。
(今日は何だか疲れたな。今日はとっとと寝て、明日シャワーを浴びる事にしよう)
家に帰り、そう考えに及んで山田は布団に入った。
しかし、体はすっかり疲れている筈なのに眠れない。そして体は何とも言えない
「何が起こっているんだ?」
違和感の一つは、すぐに分かった。いつの間にか、ピタリと合っていた筈の件の腕時計が無くなっている。
「おいおい、さっきまで腕にピッタリジャストフィットしていたよな? 一体どこへ行ったんだ?」
山田は腕時計を外した記憶が無い。しかしあの腕時計はすっぽ抜ける様な
「……なんだ、この音は?」
「どこから聞こえているんだ、この音は……?」
アナログ時計の姿は無いが、アナログ時計の音がどこに居ても聞こえる。まるで山田は自分の
「……顔でも洗うか」
そう考え、洗面所に向った山田はギョッとした。そこにはなんと、眼球があるべき
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