第六百八夜『CMの本質-buzz-buzz-』

2024/03/23「白色」「コタツ」「過酷なトイレ」ジャンルは「SF」


「暇だ……」

 私は今、トイレの便座に座っている。手には携帯端末けいたいたんまつがあり、心情をぶっちゃけると暇と言うよりは手持無沙汰と言った方が適切か。

「今日のログイン報酬ほうしゅうもらっておくか」

 私は手持無沙汰なので、携帯端末のアプリケーションを開いた。ログイン報酬と言ってもビデオゲームの類ではない、様々な商店の各種割引券や商品券だ。

 私が携帯端末にインストールしてあるアプリケーションは、行きつけの商店の物で、これを開くとコマーシャルの数々が流れ、このコマーシャルを最後まで視聴するとささやかな商品券が貰えるというカラクリだ。

 アプリケーションを起動すると、他愛が無ければ中身も無い、印象に残らないし何が楽しいのか分からない、メッセージ性が感じられない上に何の購買こうばい意欲いよくも湧かないコマーシャルが流れた。

「誰がこんなコマーシャルを考えて、企画を通しているんだろうな?」

 ひょっとしたらただの税金対策かも知れないし、ひょっとしたらこのザマで宣伝が成功していると思っているのかも知れない。しかしこうしてアプリケーションがコマーシャルを流して金券を配っているという事は明確に金品の授受が行われている訳で、私は何だか頭が痛くなる思いだった。


 私はトイレを後にし、手を洗い、居間にあるコタツに潜った。

「暇だ……」

 最近のテレビはつまらないし、映画を観るにもコタツを離脱りだつしないといけない。

「携帯端末で何か観るか……」

 携帯端末で何か面白い放送が無いか、ぼーっと眺める。

 面白そうな番組があると思い、視聴しようとするとコマーシャルが挟まり、コマーシャルが終わった頃には番組は終わってしまっていた。

「何をするにもコマーシャルか……最近のコマーシャルは本当に意味が全く分からないな」

 そもそも、コマーシャルが世にあふれている事そのものは歓迎されるべきだろう。しかし、最近のコマーシャルは記憶に残らない物が多い! 内容が無かったり、つまらなかったり、時間を損したと思う内容だったり……とにかく、コマーシャルが記憶に残らないケースが増えて来てしまっては、それこそ本末転倒だろう。

 それだけならいいが、最近のコマーシャルは不快な物も少なくない。ネタ狙いなのか、最近のコマーシャルはけたたましく、大袈裟で、それでいて鬱陶うっとうしく、ともすれば不快ですらある。この間観たコマーシャルなんて、聞く人の不快感をあおる様なガラスを引っ掻いた様な叫び声をバックに、カメラに向って指を何度も突きつけるという不快極まりない物だった。

 正直言ってこのコマーシャルを企画した人間を、眼窩がんかが一つになるまで眉間をり続けた上、かみの毛を掴んで背骨をスノーボード感覚で階段を滑り降りるのに使ったとしても、まだ溜飲が下がる気がしない。

 そんなコマーシャルは言語道断であり、余りの不快さに記憶野から消したくなる。記憶野から消したくなる様な不快なコマーシャルというのはつまり忘れるべきコマーシャルなのであり、コマーシャルとして破綻はたんしていると言わざるを得ない。

「本当に不快なコマーシャルばっかりだな、最近は!」

 そう小さく毒づくと、携帯端末が次なるコマーシャルを流し始めた。

『そこのあなた、コマーシャルが鬱陶しいと思った事は? コマーシャルをシャットアウトしたいと思った事は? その時はこれ、ドクター夜雲ヨグモのコマーシャルを見えなくも聞こえなくもする自己暗示術! お買い求めはコチラのページから! 電話からもお求めいただきます、電話番号は……』

 私はバカバカしくなって、携帯端末の電源を切った。自己暗示とやらを使わずとも、コマーシャルは見えも聞こえもしなくなった。

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