第六百五夜『恥ずべき事-naked ape-』

2024/03/19「戦争」「ガイコツ」「ねじれた主従関係」ジャンルは「サイコミステリー」


 こんばんは、わたくし有田ユウダ十三じゅうぞうという者です。

 本日お話するのは、わたくしの先日の体験談。わたくし、先日に党首と言いますか、首魁しゅかいと言いますか、とにかく所属しているコミュニティーのリーダーをうらったのですよ。

 とは言っても、罪深い世紀のピカレスクという訳ではありません。言わば、小さなグループの小競り合いと言いますか、娯楽小説によくあるないお話と言いますか……とにかく肩の力を抜いてご清聴頂けると幸いです。


  * * *


 炭合たんごうという人物が居た。炭合は自身をイラストレーターと呼んでいるが、その実、人工知能に絵を描かせている。そして、その事は公言している。

 それだけならば、別にどうでもいい人物だったのだが、炭合氏はひど傲慢ごうまんで、それでいて嫉妬しっとぶかい人物だった。

 どういう事かと言うと『炭合は人工知能に絵を描かせているだけ、イラストレーターでない!』そう言われると、はらわたが煮えくり返り、言い返せずにはいられない。

「反人工知能絵師の連中の深層しんそう心理しんりには嫉妬心がある! だから、これだけ他人に対して攻撃的になれる!」

 人とは、自分が指摘されたら痛い言葉を無意識むいしきに使うのである。想像力や語彙ごいりょくの無い人間ならば『自分が言われたくない言葉は相手も言われたくないにちがいない!』で想像力が頭打ちになる。

 自分は嫉妬深いから嫉妬に狂っている人間の事が理解出来ると言えば、聞こえは良い。しかしその実、自分の劣等感を他人に転嫁てんかしているだけなのだから始末が悪い。

 痛くもない腹は探っても何ともないが、自分の腹は痛むのだ。


 無論、そんな頭の悪い発言をしたのだから周囲から呆れられたりバカにされたりいさめられた。

 しかしそこは炭合氏、それで引っ込みがつく様な常識じょうしきてきな人物であるならば、最初からそんな発言はしない。そもそも自分の中の悪や弱さを他者に転嫁する形の攻撃こうげきせいを振りかざすのである、指摘されて引っ込める事が出来るならば、それは因果が逆になる。

「全く、反人工知能派の連中は頭が硬いですね。これから私は、近い内に人工知能を使って大きな事をやってのけますよ! その日を楽しみにお待ちください」

 無論、そんな計画は全く無い。しかし、炭合氏は嫉妬深い人間なのだ。

 嫉妬深いというのは、自分は何も持っていないと認知している状態じょうたい、他人が富んでいると認知している状態じょうたい。即ち、相対的に自分を大きく見せたいという願望に等しい。あの野郎、調子に乗りやがって、今に見ていろ! そう言っているのと何も変わらない。

 ところで、炭合氏には賛同者やシンパも存在する。そして彼女の発言を聞いていたのは、氏を叱ったりバカにしたりする人間だけではなかった。


 ある日の事、炭合氏が繁華街はんかがいを歩いていると、異変が街をおそった。繁華街の中央に位置する大型モニターが何者かにジャックされたのだ。

「おい、街角モニターが変になってるぞ!」

「あれは誰だ? すっげえ!」

「ダメ! 見ちゃいけません!」

 これが映画ならば、モニターを乗っ取った犯人は大仰な声明や、勝ち誇った宣言をするだろう。しかし、犯人はもっとシンプルで効果的な悪行を行なった。繁華街のモニターを使い、猥褻わいせつを街中に見える様に大きく展示して見せたのだ。

「な、何……アレ?」

 炭合氏は恐怖の余り、その場に凍りついてしまった。何せモニターに映っているのは紛れも無く炭合氏の顔、炭合氏が全裸に薄布うすぬの一枚のあられもない姿で街の真ん中に居るがモニターに映し出されていた。

 周囲の人物はこの珍事を逃してはいけないと、手持ちのカメラで写真をったり、映像を撮ったり、個人のチャンネルで放送を開始する者まで居た。

(私の裸がモニターに映し出されていて、しかも大勢おおぜいに見られてる!)

 我に返った炭合氏を待っていたのは地獄じごくだった。しかし炭合氏は自称イラストレーター、今モニターに表示されている映像は写真ではなく写真を元に人工知能が描き上げた裸婦画だと理解した。

(うん、あり得ない。私はあんな格好で街を歩いた事は無いし、よく見るとあのは街路樹の種類や生え方が不自然ふしぜん! となると、誰かが私の写真を加工して作った物に違いない!)

 炭合氏は自分をその場を速やかにはなれ、警察けいさつに電話をかけようとした。他人の写真から勝手にヌード写真を作り、しかも公共の場で公表するなど信じられない連中だ! これは正義の鉄槌を振りかざさなければならない。

 その時だった、二名の警察官が炭合氏の元へと近寄って来た。

「ああ、お巡りさん! 良かった、私の裸が街のモニターに! とにかくアレをやめさせてください!」

 炭合氏はそう懇願こんがんしたが、警察官はこれに反応せず、彼女の両手に手錠をかけた。

「え?」

「炭合蒲祢カボネだな? お前を電波法でんぱほう違反いはん猥褻物陳列罪わいせつぶつちんれつざいの現行犯で逮捕する」

「タレコミがあったんだよ、デカい事をやって世間を騒がせると言ってたらしいな?」

 炭合氏の頭は真っ白になった。タレコミ? 冤罪えんざいだ! 何故私がこんな目にわないといけない? タレコミだと言うなら私が常日頃交流があった人物の誰かが裏切った? 許せない! 私は悪くないのに!

「だって! でも! 私は被害者です! 私のあんなが街で流されてるんですよ!? どうして私が逮捕されるんですか!?」

「話は取調室で聞く、大人しくしていて下さい」

「ふん、お前もアレだろう? 自己じこ顕示けんじよくで動いていて、その為なら何でもするやからだ。どうせこうやって被害者面をして、可哀想がられる自作自演の計画だったんだろう?」

 炭合氏はわめき続けたが、警察官二人は全く動じず、事務的な動作で炭合氏を連行していった。


  * * *


 以上が、私の先日の体験談です。

 いやはや、彼女は自分に意見する方々を反人工知能絵師だのと言っておりましたが、彼女は今反人工知能絵師なのでしょうか? それとも親人工知能絵師なのでしょうか?

 わたくしの様に親人工知能イラストを裏切る人間も居るものの、彼女には是非とも初志しょし貫徹かんてつをして欲しい物ですねえ。


 ところでそこのあなた、あなた主人公の素質がありますよ。次はあなたの所へうかがうかも知れません!

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