第五百九十七夜『水上での出来事-booby prize-』

2024/03/08「鳥」「少年」「無敵の子供時代」ジャンルは「指定なし」


 二人の釣り人が海の上、船上で釣り竿を垂らしていた。空にはウミネコがと鳴きながら高所を飛んでおり、岸から遠い事が感じられた。

「釣れねえなあ……」

「うーむ、クジラがかかっても折れないと言う売り文句の新品だって言うのに、オケラでは意味が無い」

 彼等はサビキやあみを使うでもなし、立派な炭素筋繊維たんそきんせんいせいの釣り竿を用いており、釣りを趣味しゅみとしている事が見て取れた。

「ところでそれ、本当にクジラがかかっても折れないのか?」

「実験映像をてみたが、理論上小さいクジラがかかっても折れない計算らしい。まあ、クジラがかかったところで人の手では釣り上げられないから意味は無いが」

「何だよそれ、意味ないじゃん」

 そう他愛の無い事を言い合っていると、片割れの釣り竿に反応があった。

「む、何だこれ? デカいぞ!」

 恐れ半分、期待半分、釣り人が糸を巻き上げると釣り糸の先端せんたんには石臼がかかっていた。

「な、何だこれは!?」

 釣り人二人は石臼を知らなかった訳では無い。釣り上げた石臼の間から、自然と白い粉がこぼれ続けていたのだ。

「これは塩か? 石臼の中に何かを入れるでもなし、手で挽くでもなしに塩が精製され続けている様だ」

「そ、それはすげえ! これで俺達は金持ちだ!」

 そう興奮こうふんする男を尻目に、もう片方の男は冷静れいせいに石臼を船から海へと投げ捨てた。

「どっこいしょ」

「おい、何をするんだ!? せっかく金持ちになれると思ったのに!」

 冷静な方の男は、興奮した男方の男を宥めながら言った。

「まあ待て、あの石臼は何もしないで塩を出していたな? あんな物を船にせていたら、船が沈んでしまう。何せ勝手に無限に塩を出し続けていそうなのだからな」

「む、むう……そうか」

 興奮していた方の男は、冷静な方の男の言葉に納得した様な納得できない様な様子を示し、とりあえずは矛を収めた。その時であった。

「なんだ? またかかった、デカいぞ!」

 再び興奮した男が釣り糸を巻き上げると、そこにはフジツボが張り付いた金色の壺がひっかかっていた。

「何だろう、これはどこの地域の様式だ?」

 冷静な方の男は、フジツボをがせないかと手で軽く壺を払った。

 するとその瞬間しゅんかん、壺の中から煙と共に巨人が現れ、宙に浮かんだ。

「よくぞ私を解放してくれた。私は金貨の精霊、私を解放してくれた人間には無尽の財宝を授けよう!」

「そ、それはすげえ! これで俺達は金持ちだ!」

 そう興奮こうふんする男を尻目に、もう片方の男は冷静れいせいに壺を船から海へと投げ捨てた。

「どっこいしょ」

「おい、何をするんだ!? せっかく金持ちになれると思ったのに!」

 冷静な方の男は、興奮した男方の男を宥めながら言った。

「まあ待て、あの壺の精霊は無尽の財宝と言っていたな? そんな事をされてしまっては、船が沈んでしまう。そもそもあの壺はフジツボが張り付いていたが、それには長時間海に沈んでいないとそうはならん。つまりは、そう言う事だろう」

「む、むう……そうか」

 興奮していた方の男は、冷静な方の男の言葉に納得した様な納得できない様な様子を示し、とりあえずは矛を収めた。その時であった。

 なんと海面からトーガを着た女性が浮き上がり、その両手には円柱状の金塊と金の壺が握られていた。

「私はこの海域の女神。あなた方が落としたのは、この純金で出来た石臼ですか? それともこの純金で出来たフジツボが付着した黄金の壺ですか?」

「間に合ってます!」

 冷静な方の男はそう言うと、船のエンジンをかけて全速力で海岸の方を目指した。


「結局オケラだったな……」

「まあ何、無病息災が何よりだ」

 二人が渚で肩を落としていると、その脇に小さな男の子が周囲の人々に自慢気に何かを話していた。

 何でも海岸の近くに何かが捨ててあると思ったらとんでもない宝物で、これで自分は大金持ちだとか。

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