第五百九十六夜『健康的で、味も大変よろしい食事-Sujātā-』
2024/03/07「入学式」「冷蔵庫」「嫌なヒロイン」ジャンルは「指定なし」
「すまない。今日も
俺は出かけ際に妻にそう伝えて出かけた。
妻はいわゆる典型的なメシマズ妻で、味見と言う
(ただ、味がしないんだよな……それから食感も悪い……)
妻は料理が上手い部類だと思う。それに
肉が食べたいと言えば
「あなたには長生きして欲しいから、腕を振るって健康に良い献立にしました!」
そう言って出て来る副菜や汁物も
そもそも、俺の好物は脂身たっぷりのポークソテー、しょっぱいチーズとケチャップがたっぷりのハンバーガー、小麦たっぷりのルーで作った欧風カレー、
(考えてみるとアレだな、アレは料理と言うより給食に近いんだ……)
小学校の時に食べた給食、アレは本当にマズかった。うちの給食はお世辞にも美味しいとは言えず、何というか健康面は考えているものの、それ以外は子供心ながらやっつけ作業に感じられた。
思えば、俺がハンバーガーが好物になったのは、クソ不味い給食が一因にあるのかも知れない。それくらい俺はハンバーガーが好物で、ハンバーガーショップが
「すまない、お前。そして、いただきます」
そう小さく口にして、ハンバーガーショップでチキンサンドイッチを
「美味いな、こんな美味いものはこの世にそうそう無い」
バンズの中の揚げ鶏に噛みつくと、肉と揚げ物の油が口内に広がり、塩分の効いたチーズが自己主張をしつつも
その時の事だった。レジの方から叫び声が挙がる、別にハンバーガーショップにありがちな子供の
「動くな! 俺達は強盗だ! 大人しく金目の物をこのバッグに入れるんだ!」
ハンバーガー強盗、実在したのか! そう言えばこの間ハンバーガーショップが強盗に
こういう時は強盗に気付かれないように
「おい、そこの男! あやしいマネをするな!」
後ろからそう声がしたかと思うと、射出音の様な音が
「痛っ!?」
その次の
(ぐああああああああああっ!)
そう叫び声を挙げそうになったが、声が口から出ない。いや、舌が全く動かない。俺が全身の
「お前ら全員妙なマネをするなよ、その男みたいに改造テーゼー銃の
* * *
俺が目を覚ますと、後ろ手に
自分が強盗に捕まってどれくらい時間が経ったかは分からないが、床に面した身体が痛む、ほんの十数分倒れていただけではこうはならない。
「くそ、腹ペコだ。そう言えば、昼飯のハンバーガーは一口食べただけだったな……」
身体をよじらせて外を確認すると、空はすっかり暗くなっていた。そりゃあ腹も
しかし、どうも店内の様子がおかしい。人々は
「大丈夫ですか、みなさん!」
そう言って
「犯人は無事、全員捕まりました。人質にされた人達も全員無事です」
機動隊の人達曰く、ハンバーガー強盗はいつぞやのニュースと同一人物であり、それを受けて防犯を強化していたこのハンバーガーショップからの通報は速やかに届き、犯人は包囲されて逃げる事が出来なくなってひたすら
俺は機動隊の人達に
「いや、すみません。そんな事より俺は腹ペコで……何か食べるものはありませんか?」
俺が泣き出しそうになりながら、そう口に出した。
「居た! あなた、大丈夫!?」
誰であろう、妻がその場に駆け付けた。
「え?いや、その俺は……」
「大丈夫? 酷い事されなかった? 立てこもり事件の防犯カメラにあなたが映っていて、報道が言うには何とか銃で
「大丈夫だ、俺は何とも無い」
その時、情け無い事に俺の腹の虫が
「あっ、あなたお腹ペコペコでしょう? こんな事も有ろうかと。お弁当用意しといたの!」
そう言うと妻は、パッと灯りが
(ま、まあ妻の味のしない料理でも、すきっ腹に詰め込めるだけマシか……)
俺は全力で
「ありがとう、いただきます」
弁当箱の中身は、俺の記憶に悪い意味で焼き付いているおにぎりとチキンソテーとブロッコリー、そして水筒入りの味のしない味噌汁。おにぎりは最低限の塩味がついているからマシだが、チキンもブロッコリーも味らしい味が無いし、食感も最悪で軽度のトラウマと言えるかも知れない。
しかし、妻が目の前に居る都合逃げられない。俺は観念して弁当に手を付ける。
「!?」
美味い。
味がする、美味しい、味が全然
「美味い! こんな美味い料理を食べたのは初めてだ!」
「あら、そんなに美味しかった?」
「ああ、美味い! こんなに美味い料理なら毎日でも食べたいよ!」
「ふふ、そこまで言うなら仕方ない。私が寄りに腕をかけて作ります」
妻は見た事の無い様な笑顔で、胸を張って俺に答えた。
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