第五百八十六夜『それでも草は転がり続ける-Tumbleweed’s connection-』

2024/02/24「地獄」「花」「荒ぶる罠」ジャンルは「ギャグコメ」


 枯れたオカヒジキが風に乗って転がっていた。いわゆるタンブルウィードとか転がり草とか、もしくは単にと呼ばれている、西部劇せいぶげきでお馴染みのアレだ。

 オカヒジキは成熟せいじゅくすると茎が硬化し、風で茎が折れ、風に乗って地を転がる。この生態せいたいはタンポポのそれと似ていて、風に乗って種子を飛ばすためのプロセスだ。

 しかし、西部劇で転がっているだけで無害に見えるオカヒジキだが、その実有害な植物とも言える。

 まずオカヒジキはアザミの一種で、有刺植物。枯れたと言っても有刺植物が丸まって風に乗って飛来するので、不用意に触るとケガをしてしまう。

 加えて枯れているものの、種子を抱えてそこら中に種子をばらく植物なのだ。花粉症を抱えた人間にとっては迷惑な存在になる。

 そして何よりも枯れた植物と言うのが大きな問題。生木と言うのはえないが、枯れた植物と言うのは即ちまき。そんな可燃物が風に乗って街に来るのはちょっとした恐怖である。

 更にはオカヒジキは繁殖力はんしょくりょくが強く、ともすればオカヒジキの球が街をおおってしまう事も稀にある。大きなボール状の茨が街を覆うと、これを取り除くには原始的且つ手を傷めない手法で取り除くしか無い。何せオカヒジキの球は燃えやすいのだから、炎や薬剤で対処しようとすると家屋の方が被害を被る。

 ならばオカヒジキだけを毒する薬剤や天敵てんてきを使えば良いのではないかとなるが、これもまたむずかしい。何せタンブルウィードと言うのは枯れて球を形成する植物の総称であり、別の近縁種きんえんしゅも存在するし、加えて言うとタンブルウィード同士で別のタンブルウィードと交配する事すらある。ならば全ての種類のタンブルウィードを溶かす薬剤なり、食い尽くす天敵が必要となる。

 その結果、タンブルウィードの排除は原始的な手段を用いらざるを得ず、人々は大変な不便にさいなまれた。焼却なんてもっての外、成っているオカヒジキを燃やした途端とたんに転がり始めて火災になるかも分からない。


 そんなこんなで、ここはある研究所。現在の課題は、タンブルウィードに有効な除草剤の開発。

 しかし未熟みじゅくなオカヒジキ等を枯らし、成熟したオカヒジキ等は転がらないように枯らすとなると、これは大変な無理難題と言わざるを得ない。

 しかし研究員達は決して諦めない。かべには各種草案やアイディアの殴り書き、更にはタンブルウィードが街を覆ってしまったニュースが一面記事にっている新聞しんぶんも貼ってある。

「例えどんな手段を使っても、人類がタンブルウィードに苦しめられない世界を作ってやる!」

 研究員達の士気は高い。その言葉にも熱意ねついこもっており、本気である事がうかがえた。


 その翌日、地球上から人類はすっかり消えていた。

 蒸発か、神隠しか、核爆弾かくばくだんか、宇宙人の介入か、その詳細を知っている者は誰も居なかった。それこそ人類は一人も居ないのだから、それを語れる人が居ないのも道理と言うものだ。

 地球上から人類が消えうせただけあり、地上は荒れ果てていた。乗り物や機械きかいや発電所や兵器を制御する人が居なくなったので、地表は更地の様になる場所、全ての動物が死に絶えた様に見える場所、ただただ荒地が地平線の向こうまで広がる地等々……例え人類が再び現れても、とても暮らせるようには見えなかった。

 ただ、荒れ地には元気そうに転がって種子を撒くタンブルウィードだけがあった。

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