第五百八十一夜『何でも知ってる賢い赤ちゃん-Homunculus-』

2024/02/17「天」「扉」「過酷な山田くん(レア)」ジャンルは「指定なし」


 ある所に、それはかしこい夫婦が居ました。

 二人はとても賢いので、これから生まれて来る子供には自分たちの知っている事を教えようと考えた。

「これからの時代、険しい事も辛い事もたくさんあるでしょうから、そう言う事を防ぐ事も教えないとね」

「それがいい。この子には幸せになって欲しいし、世の中の危険な事に負けない様育って欲しい」

 こうして夫婦はこれから生まれて来る子供に胎教をし始めた。

 ある時は自動車事故にって欲しくないと考え、子供向けの啓蒙けいもうを絵本で行なった。またある時は正しい子供に育って欲しいと考え、勧善懲悪かんぜんちょうあくの絵本を読んだ。またある時は、どんな事件にも遭って欲しくないと考え、ニュースや新聞を読み聞かせたりした。

「世の中は怖い事だらけだから、せめて怖い目に遭うのを回避かいひ出来る様に育ってね」

 何せ我が子の事であり、無力な赤ん坊の事なのだ。どんな些細な事故でも大ケガを負ったり、死んでしまうかも知れない。そう考えると胎教にも力が入る。

「今日は玉突き事故が遭ったそうよ。怖いね、あなたはそんな事故に遭わないように気を付けてね」

「今日は電車の運転手が発作を起こして気を失ったらしく、電車がホームに乗り上げたそうだ。お前はそんな目に遭わないでくれよ」

「今日は工事現場で事故が起こって……」

「今日は大雨で土砂崩れが起こって……」


 ある夫婦の赤ちゃんが死んでいた、へその緒が首に絡まって死んでいた。まるで世をうれう、首を吊った自殺者の様に死んでいた。

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