第五百八十二夜『道標-Generative preTrained Transformer-』
2024/02/19「南」「時間」「希薄な子ども時代」ジャンルは「大衆小説」
『朝七時です、起きてください。学校に遅れます』
俺はメガネかけにかけた、デバイスから鳴る合成音声で目が覚めた。
俺は洗面所で顔を洗うと、そのデバイスを顔に装着した。このデバイスはインカムと
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
俺が食卓に着くと、そこには既に母さんと父さんが居た。二人とも普通にチャッターを忘れずに顔に着けていて、食卓には恐らくチャッターでレシピを調べたであろう朝食が乗っていた。
「いただきます」
母さんの作った朝食は美味しかった。何せチャッターの指示通りに作っているのだから、美味しくない訳が無い。
俺は朝食を食べ終え、学校で午前の授業を受けていた。
「それじゃあ南、この問題を解いてみろ」
教諭が俺を指し、板書の問題を示した。
[答えは一四九二年です。]
チャッターの、俺の左目を
「答えは一四九二年です」
「正解。お前らも南の様に、ちゃんと噛まずにチャッターの言葉を正確に読み上げるんだぞ。これ、テストに出るし、受験でも大切だからな」
そう父権的に言う教諭の顔にも、同じ規格のチャッターが装着されていた。俺にはよく分からないが、きっと教師陣には教師陣なりの時間配分とか教える内容だとかが有って、それがチャッターに表示されているのだろう。
チャッターに尋ねればきっと答えは出るが、俺は特に気になる事も無く、黙って授業を受けた。
午前の授業を終え、昼休みを告げるチャイムが鳴った。俺は専ら弁当ではなく学食で食べるので、速足で食堂へ向かう。
「さて、何を食べるべきだろうか?」
『栄養バランスを
俺がチャッターに対して質問をすると、チャッターが提案をしてくれた。
俺はチャッターの意見そのままに従い、ポークソテー定食を注文する事にした。何せチャッターの示す事に
俺は注文したポークソテー定食を早急に平らげ、教室に戻った後ノートを開いた。
「課題のレポートには何て書けばいいだろうか?」
『経済指標とハンバーガーの価格について、レポートをまとめるのが好ましいでしょう。映像を送ります』
俺の質問にチャッターは答えてくれ、バイザーにレポートに写すべき文章とグラフとが表示された。これを間違いなく移せばレポートは
チャッターの音声指示を切らないのはマナー
「おう、南。もう来週の課題か?」
「ああ、食った後こそ何かしないとって気分になっちまってな」
「真面目だねー、俺はチャッターの丸写しなんて元気が無いと出来ない事は無理だ」
俺と東はその後二三言葉を交わし、レポートの邪魔になっては悪いと東は黙って自分の昼休みへと戻った。別に他人に真面目さを強要する積もりは
俺は少々眠気を覚え、その場で伸びをした。
* * *
俺の面前には四角四面の面接官達が座っていた。言うまでも無く全員が全員チャッターを顔に着けている。
俺は事前に練習して来た通り、面接を行う。
[氏名、学部や在学時代の
俺はチャッターのバイザー部分に表示される情報を口頭でスラスラと話した。面接官達は納得した様に頷いてくれて、面接は
* * *
「どうだ、君もそろそろ所帯を持つべきじゃないかね?」
俺が
(お見合いか、俺には想像の出来ない事だ。どうしよう?)
俺がそう口を閉じたままで言うと、
[是非受けるべきです。婚姻をして、子を育むべきです。お見合いの作法、婚姻の手続き、同じく作法は以下の通りです。]
俺はチャッターの勧める通り、部長のお見合いに乗っかる事にした。何せ部長もお見合いを勧める様にチャッターに言われたのだろうから、何の失礼も
* * *
病院で
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ」
俺は初めて見る自分の子の顔に感動の余り、心がどうにかなりそうになり、しかし心が感情で一杯になってしまい、どうしればいいか分からなくなってしまった。しかし、名前は決めてある。
『これまでの歴史上の人物、聖典に登場する名前から
それはいい! ヨシュアは俺でも聞いた事が有る良い名前だし、何よりチャッターの提案する事なのだから間違いが無い。
* * *
前身の節々が痛い、うまく体を起こす事が出来ない。しかし
『XX
チャッターが俺にそう言った後、俺の
気が付くと俺は机に突っ伏して眠っていた。何だか長い夢を見ていた気がするが、眠っていた時間はどうやら
何せ俺にはチャッターがあるのだ、これさえ有れば文字通り怖い物無しだ。
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