第五百八十夜『野菜サラダが食べられない-CHARG GO!-』

2024/02/15「野菜」「彗星」「最悪の主従関係」ジャンルは「ホラー」


 ある所に悩みを持った女の子が居た。

 悩みと言うのは別段深刻な物ではなく、誰でも持っている程度の物。彼女は野菜が大嫌だいきらい!

 お弁当に入っているミックスベジタブルが嫌い! カレーやシチューに入っているニンジンが嫌い! スープに入っているタマネギやネギも嫌い! それから野菜ジュースも大嫌いだし、野菜の入ったケーキも大っ嫌い!!

 今は、野菜が食べられないからと、すねてベッドの中に入ったところ。毛布をスッポリ頭に被り、硬く目をつむっている。

「あーあ、世界中から野菜が無くなっちゃえばいいのに……」

 女の子がそう呟いたのを、聞いているものが居た。天に光っているお星さまだ。


 * * * 


「おはよう」

「おはよう、お腹空いたでしょう?」

 女の子が目覚めて食卓に足を運ぶと、お母さんが朝ご飯を盛りつけていた。しかし、そんな事はどうでもいい。

「えっと、これは何?」

 女の子が皿に盛られたメニューを見てゾッとした。皿に盛られているのは茶色いビニールぶくろの様な物、異様に黒目が大きくどこから見てもこちらを凝視ぎょうししている様に見える人面果実、それから猫に似ているが足が八つある小さな毛の生えた動物がジタバタと皿の上で力無く身を左右に振っていた。

「ナンジャモンジャ料理よ」

「ナンジャモンジャ料理……?」

 女の子が呆然していると、お父さんが食卓につく。

「おっ、ナンジャモンジャ料理! 嬉しいよ、母さんのナンジャモンジャは世界一だからな!」

「はいはい、冷めないうちに食べなさい」

 そう言われるとお父さんは手を合わせ、猫に似た小さな多足類を指で摘まんで口に入れた。多足類はお父さんの指の間でと必死の抵抗を試みたが、呆気なくみ砕かれてしまった。

「ねえ、ナンジャモンジャ料理って何……? そもそもナンジャモンジャって何?」

「やあねえ、ナンジャモンジャ料理はナンジャモンジャ料理よ」

「ナンジャモンジャはナンジャモンジャだ。最近はソースで炒めるのがメジャーだけど、あれはダメだな。やっぱり、昔ながらの醤油しょうゆあじじゃないとナンジャモンジャと言えないな」

 そう言ってお父さんはリモコンでテレビを点ける。テレビはニュースで、野菜の収穫量しゅうかくりょうが依然謎の低下をしたままの事、生けの中でナンジャモンジャが廃棄物はいきぶつを食べてと泳ぎながら育っている事、世間ではナンジャモンジャふれあいカフェが話題な事を告げた。

「ナンジャモンジャふれあいカフェなんてあるのね、お父さん今度一緒に行ってみない?」

 お母さんは興味深そうにテレビのニュースに耳を傾けるが、お父さんは乗り気ではなさそうでむずかしい顔をしている。

「やめろい、ナンジャモンジャみたいに生きている可愛い動物と触れ合って見ろ、今度からナンジャモンジャを食べる毎にナンジャモンジャがフラッシュバックしてナンジャモンジャを食えなくなるよ。ああ言うのは過激派かげきはナンジャモンジャ保護ほご団体だんたいがナンジャモンジャを保護する口実……いや、ナンジャモンジャ畜産を攻撃こうげきする口実作りしているにちがいない」

 お母さんとお父さんはこう意見を交えるが、女の子がナンジャモンジャ料理に手を付けてない事に気が付くと、こちらに関心を寄せた。

「どうしたの? お腹ってないの?」

 お母さんは女の子に対し、ナンジャモンジャをスプーンに乗せて口のすぐ前まで差し出した。ナンジャモンジャはピチャピチャと音を立てて、醤油や出汁だしの中で抵抗をしている。

「そうそう、折角のナンジャモンジャが冷えちゃうよ?」

 お父さんは女の子に対し、ナンジャモンジャを指で摘まんで口のすぐ前まで差し出した。ナンジャモンジャはピチャピチャと音を立てて、醤油や出汁を跳ね飛ばして抵抗をしている。

 女の子は食卓の椅子に座ったまま、卒倒して気を失った。


 * * * 


「はっ!?」

 女の子は目を覚ますとベッドの上だった。何か恐ろしい夢を見ていた気がするけど、何よりも空腹で、お腹がぐーと音を立てた。


「おはよう」

「おはよう、お腹空いたでしょう?」

 女の子が目覚めて食卓に足を運ぶと、お母さんが朝ご飯を盛りつけていた。女の子の皿にはトーストとスクランブルエッグとだけがあり、中央の皿には電子レンジで調理したブロッコリーのペペロンチーノとカットしたトマトとが有った。

「早くパンを食べちゃいなさい」

「いただきます!」

 女の子は皿に盛りつけられたトーストと卵料理を平らげ、更には中央の皿に盛ってあったブロッコリーとトマトも平らげた。

 お母さんは女の子が嫌いな野菜を平らげた事におどろき、しかしすぐに朗らかな表情を浮かべた。

「あら、野菜食べれる様になったの?」

「うん、ナンジャモンジャ料理はイヤだから!」

 お母さんと、今起きて来たお父さんは女の子の言っている事が分からなかった。分からなかったが、小さな子供の言う事と言うのはそう言う物だと思い、納得した。

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