第五百七十九夜『カップ入りのチキンヌードルスープを- cold medicine-』

 2024/02/14「神様」「ヤカン」「新しい世界」ジャンルは「ミステリー」


 小腹がった。こういう時はチキンヌードルスープに限る。


 俺の好物はチキンヌードルスープなのだが、これは幼少の頃からの嗜好しこうだ。

 俺がチキンヌードルスープに興味きょうみを持った原因なのだが、幼少の頃に観たヒーロー物カートゥーンアニメで怪人が水筒に入れられたチキンヌードルスープをかけられて倒れるシーンが頭にこびり付いていて、それが原因だと思う。

 俺は風邪をひいたヒーローが渡されたチキンヌードルスープと言うシーンの意味が分からなかったし、冷害や風邪を操る氷の怪人がチキンヌードルスープをかけられて倒れたシーンも(きっと氷のキャラクターだからのスープに弱いんだろうな)としか思わなかった。

 だが、確かにこのエピソードは俺の記憶にとてつもなく強く残った。今では俺は風邪を引いた時にはチキンヌードルスープを食べて寝て治すし、寒気がする時にはチキンヌードルスープを食べると寒気が引く。幼少の頃に観たあのヒーローは、俺に対して風邪の対策を教えてくれた本物のヒーローと言う事になる。


 俺が好むのは、専らカップめんタイプのチキンヌードルスープ。お湯を沸かし、ひよこと卵のイラストが印刷されたカップのふたと音を立てて外す。

 

 カップ麺の中には乾麺とか加薬とか、そう言う物ではなく家財道具があり、カップ麺の中央にはちゃぶ台があって、そこには座布団に座った女性が居たのだ。側面には柱時計が備え付けられているし、その反対側にはタンスがあり、対角線上にはベッドがあり、更にその反対にはテレビが有った。

 密閉されたカップ麺の容器に何かが居ると言うのは、まずあり得ない。工場で虫やネズミが混入する事は万が一あるだろう、しかしカップ麺の容器の中にが居たと言うのはさすがに初体験はつたいけんだ。

「えっと、あなたは誰ですか?」

 俺がそう声をかけると、女性は視線をテレビから俺の方にやり、俺の存在に気が付くとこちらに対して何か言い始めた。言い始めた様なのだが、それはカップ麺の中の女性が口をパクつかせている様子からそう判断しただけで、声が高すぎるのか小さすぎるのか、俺の耳には何も届かない。

 俺は何だか批判されている様な気がして、カップ麺の蓋をした。

 しかし、これでいいのか? 俺の心には疑問が生じた後に、沸々と怒りが生じて来た。

 そもそも俺はカップ麺を買って、食べようとしただけだ。それなのにカップ麺に住み着いていた謎の女のせいで、好物のチキンヌードルスープを食えないなんて理不尽な目にっていいのか? そもそもカップ麺の中に住み着くなんて、太くて厚顔無恥な事ではないのか?

 俺は沸騰ふっとうふっとうしたヤカンを手に、再びカップ麺の蓋を開けた。そこに女は居らず、どこも欠けていない乾麺だけがそこにあった。

「俺、疲れているのかな? 高熱こうねつで幻覚を見るとか、そう言う奴かな……」

 俺はカップ麺にお湯を注ぎ、三分待った後にのチキンヌードルスープを啜った。とても美味しかった。


 夜は更けて、布団の中。俺は布団の中で、先程あった出来事に思考を及ばせていた。

「ダメだ、考えても分からん」

 しかし、俺は不安に思うのだ。今この瞬間しゅんかんにも、誰かが天井をと音を立てて、この部屋の中にのお湯をかけてくるのでは無いのだろうかと……

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