第五百七十二夜『絶対水に濡れない靴、作ります-tālāria-』

2024/02/04「電気」「墓標」「意図的な中学校」ジャンルは「大衆小説」


 テレビを点けると、威勢いせいの良い通販番組の司会がセールストークを立て板に水に止めども無く話していた。

「こちらの防水スプレーをごらんください! この防水スプレーを一吹きしたら、アラ不思議ふしぎ! なんとこのくつは二度とれる事はございません!」

 そう言って司会はスニーカーにスプレーを噴霧ふんむすると、次に空の水槽すいそうに靴を入れて、ジョウロで水をかけた。

「ご覧の通り、この様に全く靴は濡れておりません! 更に靴の外側にも内側にもスプレーをかけるとアラ不思議、もっとすごい事になっちゃいます!」

 司会が新しく用意した水槽には、靴がすっかり水没する程の水で満たされていた。司会はこれ見よがしにたっぷりとスプレーを噴霧したスニーカーを水槽に投げいれると、なんとスニーカーが水を弾くどころか、一瞬水の底に沈んだスニーカーが水面まで登って来たでは無いか!

「みなさんご覧になりましたか? この防水スプレーは完璧かんぺき撥水はっすいを行ない、結果として水に浮かんでしまいます! そして勿論、靴は全く濡れていません!」

 司会は今しがた投げ込んだスニーカーを手に取ってカメラに向けた。事実、視界が手に取ったスニーカーはまるで手品の様に全く濡れていない。

「この素晴らしい防水スプレー、今ならなんと四本まとめて三本分の値段で提供いたします! 電話番号は〇一二〇のXXX、XXXまで。皆様からのお電話お待ちしております!」


 中学校の近くの河川で生徒が溺死できししていた。何でも、通販で手に入れた水面を歩く事が出来る靴とやらを友達達の前で自慢じまんしようとしたらしい。

 この河川は先日の豪雨ごううも有り、増水傾向にあった。無論注意喚起ちゅういかんきも有ったが、それがこの無謀な挑戦の呼び水になってしまったと言える。

 ところで、言うまでも無く水面を歩く事が出来る靴なんて物は実在しない。しかしこの事件には奇妙な点が一つ有り、それは生徒が持っていた靴にある。

 何でも、目撃情報もくげきじょうほうによると、その生徒は確かに水面で一瞬いっしゅん立っていたが、次の瞬間にはひっくり返って水に飲まれ、生徒の靴だけが水面に残り、生徒本人はそのまま水面下であばれて溺れてしまったとか……

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