第五百六十二夜『死神の印-bear away-』

2024/01/23「山」「迷信」「静かな山田君(レア)」ジャンルは「童話」


 ソーシャルネットサービスに妙なうわさが有った。何でも死神の印と言う画像が付けられると、そのアカウントの人物は近いうちに死んでしまうと言う。

 よくある話だし、もっと言えばうそくさい話だ。しかしその一方で最低限の理屈は通っている。

 例えばこれが、遭遇そうぐうした人物全てを皆殺しにする殺人モンスターならば、その死因の話が広まるのは根本的におかしい。

 その点、近い内に死んでしまうと言うのであれば、まだ噂になっていると言われても理解が及ぶ。

 しかし噂と言うのは往々にして大袈裟おおげさな物、実はこの噂に死に至るなんて要素は無い。人々が伝言や噂をするにあたり、面白がって大袈裟にして行っただけだ。


 ある所に山田と言う男が居た。社会では目立たず、派手を好まず、内向的で、し様に言うと陰気な人物だった。

 彼は酒を好まず、博打をせず、好色でもなく、専らネットサーフィンを好んでいた。そう言うと聞こえは良いが、鬱憤うっぷんを晴らすために何かに打ち込むと言うのは人間を粗暴そぼうにする。ネットサーフィンと言うのは聞こえの良い方便で、その実は荒らし行為と言った方が正しい。

 しかし山田は人相応の分別が有った。具体的に言うと、しょっ引かれる様な事は絶対にせず、他人をあおったり挑発行為ははたらくものの、逮捕される様な一線を超える事は無かった。


 ある日の事だった。山田が相も変わらず、ソーシャルネットサービスを用いて他人を煽ったり挑発していると、何やら妙な事が起こった。

「何だこれは?」

 見た事の無いアカウントから、何やら画像付きのメッセージが届いた。ただのスパムメッセージか広告か、或いは悪質なウイルスか? そう思ったが、どうやらただの一枚絵。何やらどこかで見た事のある壮年男声のリアルな似顔絵から下が、童話のキャラクターの身体になっていると言う物だった。

「何だこれは? どっかで見た事あるおっさんが何かのキャラクターの着ぐるみを着ている写真? 絵?」

 その時であった。通知が滝の様に入って来た、どうやらソーシャルネットサービスの山田の発言逐一一挙一動に例の着ぐるみのおっさんの画像が貼り付けられたている様だ。

「な、何が起こっている?」

 連続した通知音は急に始まり、急に終わった。何が起こったのかと、端末たんまつを見た山田はビックリ仰天した。


―――――


 ご利用のアカウントは凍結されています。


 慎重に精査した結果、ご利用のアカウントは規約に違反いはんしていると判断しました。

 そのため、ご利用のアカウントは利用する事が出来ません。


―――――


「な、何だこれは!?」

 なんだかよく分からない画像を自分の発言に貼りつけられたと思ったら、これである。何か関係性が有るのだろう。

「あ、思い出した! このおっさんは隣国りんこくの首相だ」

 どうやら隣国の首相を小馬鹿にした悪戯者いたずらものがお灸を据えられ、それに巻き込まれた事になるらしい。

 しかし、山田本人はしょっ引かれる様な事は何一つしていない。企業に問い合わせ、自分は隣国に対して侮辱ぶじょくを働いたやからとは無関係だと主張をしてアカウント凍結を解いてもらう他無い。

「全く……他人に迷惑をかけたり、傷つけたり、ネット上の出来事とは言えどうしようも無い人間のクズには困ったものだな!」

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