第五百六十夜『目にかなう薬-eye for eye-』

 2023/01/19「神様」「アルバム」「燃えるトイレ」ジャンルは「指定なし」


 ブルーベリーは目に良い食品とされている。

 これは元々、イギリスの夜警やけい飛行機乗ひこうきのりがブルーベリーを食べる習慣しゅうかんがあった事に因る。

 夜警や飛行機乗りが暗所の篝火かがりびや灯台や敵機てききの光を見て、眼精疲労がんせいひろうを覚えた際、ブルーベリーの効能が現れたのだ。


 目から脳へと情報が伝わるのは、網膜もうまくが光を感じ取り、ロドプシンが伝達を行なうからである。

 このロドプシンの再生を行なうのがアントシアニンと言う色素であり、ブルーベリーの青紫色こそ目に良い食品とされている根拠である。

 また、アントシアニンはポリフェノールの一種であり、ポリフェノールは細胞障害の阻害をゆるやかにする作用を持つ。この事からも、ブルーベリーは目に良く、老化を防ぐと言われている。

 しかしブルーベリーを口径摂取こうけいせっしゅしても、人体が吸収出来るりょうは知れている。そもそも人体が摂取した食材に大きく影響えいきょうを受けるならば、肉体が置換されて人体がとりや魚やその他家畜や植物になっていなければおかしい。

 そして最後に、牛乳を飲めば失った骨が再生する事が無い様に、ブルーベリーを摂取しても劇的げきてきに目が良くなることは無く、疲れ目に効くと言うと表現した方が正しい。


 何にせよ、目に良いからと言ってブルーベリーばかり食べても健康になる事は無く、様々な栄養素を満遍まんべん無く過不足無く摂る事が肝要と言えよう。


 ―ミンメイパブリッシング社刊行『食品と栄養素えいようそ八百選はっぴゃくせん』より


  * * *


 昔々、ある所で男が両目を失い、立ったまま死んでいた。

 勿論人間が両目だけを失い、立ったまま死んでいるなんて事はそうそうあり得ないし、このあり得ない出来事は人の業と言うより神々の仕業だった。


 この男は一言で言うと、のぞきだった。ある時女神の入浴を覗き、それが怒りを買った。

 しかもこの覗きが入浴を覗いたのは天神達のマドンナ、美の女神。これには天神達もお冠、しかし天神達にも分別はあり、むやみに天を留守にする訳にもいかず、俺がやる! わしにやらせろ! ぼくが一番うまく出来る! との大騒ぎであった。

 女神の愛人や息子や娘や親ややその他遠縁の親戚しんせきたちが挙手する中、これが一番ふさわしいと天神の王に天罰を下すよう指名されたのは女神の夫、彼は炎と鉄槌の神であり、夫である事と権能の性質からして、他の神々も納得して天罰をゆずられた。

「うちの自慢のカミさんの裸を覗き見するとは、太い野郎だ!」

 そう叫び、夫神は文字通り鉄槌を下す。鉄槌は金床かなとこの上に乗せられた、彼がこしらえたガラス玉二つを叩きつぶし、その時生じた火花が地上へと落ちて行った。


 それから地上、覗きをはたらいた男に天から火花が降り、彼の眼球に直撃ちょくげきした。

 それがただの火花ならば、まだ目が痛いだけ、最悪放置したら失明するかも知れないが、それだけの筈だろう。しかしこれは天罰であり、神々の裁決なのである。

 目から悪を働いた男は目から天罰を受け、天の火がたちまち魂まで回って死んでしまった。いや、死んだと言うよりは脳死状態のうしじょうたいの様になってしまった。いやしかし、神話では死者が神々の裁判の末によみがえった事例も有る訳で、これは脳死状態と言うより植物状態と言った方が適切てきせつか。

 植物状態になった覗きを働いた男だが、まさしく植物の様になってしまい、その場に立ち尽くした。天神達は彼を死んだものとして扱い、あの世の裁判所へ出頭させ、そして正式に死者として認知された。もうこうなると、人間としての彼は名実共に完全に死んだものとされてしまった。

 すると覗きを働いた男の肉体に変化が起こった。彼の肉体は文字通り植物となり、一本の人間大のとなり、そして実を形成した。


 かつて女性の裸体らたいを見てきた彼だが、今となっては視力を持っていない。

 しかし、この樹に生った果実を食べると目が良くなり、他人に悟られずに遠見が出来ると語られている。

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