第五百五十三夜『ナーロッパ貿易-miner league-』

2024/01/11「白色」「絨毯」「最強の主人公」ジャンルは「SF」


 俺は現金に困っていた。現金に困っていたというのは、金目の物や外貨は有ると言う意味で、何かしらの手段で換金すれば良いと言う意味だ。しかし、今の俺は金目の物や外貨があるにも関わらず、困窮こんきゅうしていた。

「なんで換金出来ないんですか? 何でも買い取ってくれると言ったじゃないですか!」

 俺はそう質屋の窓口で、疑問を口にした。何せ表の看板には『何でも買い取ります』と書いてあるのだ、これではまるで詐欺の様ではないか!

「そう言われましてもね、何でも買い取りますと言うのは常識じょうしき範疇はんちゅうでです。犯罪に巻き込まれるのはゴメンですよ」

 そう言うと、質屋は俺を非難ひなんする様な表情を浮かべた。全く失礼な、俺は全く犯罪行為などしていないのに!

「そもそもですね、何ですかこの金貨は? こんなちゃんとした金貨なのに、私共が見た事無いと言うのは架空の金貨……即ち贋金にせがねって事でしょう! そもそも誰なんですか、この金貨の肖像は?」

 質屋は眉間にしわを寄せ、俺の持ち込んだ金貨を指差した。

「イマクヮングァエイター一世です」

「イマクヮングァエイター一世!?」

 質屋は俺の返答に対し、素っ頓狂な叫びを上げた。まるでイマクヮングァエイター一世を、俺が今考えた架空の人物だと思ったらしい。本当に失礼な話だ。

「とにかく、贋金偽札のたぐいは買い取ることは出来ません!」

 質屋はそうピシャリと拒絶の言葉を吐き、それ以上俺の事を取り合ってくれなかった。


 俺が持っている金貨だが、別に贋金でも何でもない。れっきとした本物だ。

 俺は俗に言う、だった。俺はで数々の剣と魔法まほうの冒険を体験し、その結果に戻って来た。

 しかし、ここでちょっとした問題が発生した。俺は向こう側で使っていた魔法の袋から荷物を取り出そうとすると、何故か荷物を掴む手に抵抗がかかり、俺は袋から荷物を引っ張り出さんとしている腕が重くなるのを感じた。

 俺はムキになり、無理矢理袋の中の荷物を無理矢理引っ張り出した。すると中に入れておいたミスリル製の武具は光を放ち、ボロボロになって崩れてしまった。

「こ、これは……話に聞く反物質の様な物だとでも言うのか?」

 俺はこの現象を見て、一つの仮説を立てた。ミスリル等は反物質の様な性質を持つ物質であり、故に現在のこちら側では存在出来ない。存在できないから、空気か何かと反応すると跡形もなく劣化してしまう。

 つまり、向こう側で手に入れた魔法だの未知の代物をこちら側では取り出す事が出来ない事になる! 空飛ぶ魔法の絨毯じゅうたんも、魔法の金属きんぞくで出来た武具も、こちら側ではタダの消し炭以外の何ものでもない!

「いや、単純にこちら側にも実在して、それでいて価値がある物も袋の中にあった筈だ!」

 俺が転移した向こう側は、金本位制きんほんいせいに基づく国だった。しかしきんは価値こそあるが、工業的にも美術的にも次点の鉱石であり、ミスリルだのヒヒイロカネだの青生生魂アポイタカラだのが持てはやされていた。向こう側でのきんは、こちら側での銅の様な物だ。物質として安定しているから硬貨や材料として用いられるが、延べ棒が資産価値として用いられる事は無い。

「それじゃあ、この金貨を売り払えばいいな! 向こう側の外貨でも、金貨は金貨だ!」


 しかし現実は甘くなかった。質屋が言う様に、贋金だと疑われたならば確かに買い取れないのは仕方の無い事だ。

 しかし手元には本物の金貨が大量に有るのに、現金に困ると言うのもひどい話だ。

「畜生……今に見てろよ、俺は絶対になり上がってやるぞ……」


  * * *


 大きな広い車庫の中、大型車両が走り少年を跳ねた。少年は大型車両に跳ねられた結果、意識を失って植物状態になった。

 いわゆる異世界転移と言う奴だ。何せ大型車両に跳ねられたら人は異世界に転移するのは推測ではなく、観測かんそくされている事実だ。常識じょうしきと言っても過言ではない。

 少年は罪人だった。白い粉……違法薬物いほうやくぶつの単純所持の罪をはたらき、匿われている所だった。

 うそだ、少年が違法薬物の単純所持を働いていたと言いうのは大嘘だ。少年はハメられており、ただの小麦粉を違法薬物だと誤認し、犯罪の片棒を担いだ形で告発されるとおどされ、この車庫に匿われたのだ。

 しかし少年は車庫に匿われて隠れた後、大型車両に跳ねられた。そして車庫の後方では、工業的な装置が次から次へと見た事のない硬貨を次から次へと延べ棒に加工していた。

 大型車両を運転していた人物は車から降り、跳ねられた少年の様子を見て、納得した様な様相になって頷いた。

「これでよし。ドライブレコーダーにはコイツが隠れていた事、死角に居た事が見て取れるし、俺が危険運転の類で有罪になる事はない。後は救急車を呼んで、コイツのつぐないを行なう恩人を演じればいい。コイツもきっと、向こう側から金貨を持ち帰り、俺と言う恩人に金貨を捧げてくれるにちがいない」

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