第五百四十七夜『小さな赤い家・2-prominence-』

2023/01/04「緑色」「鞠」「激しいかけら」ジャンルは「王道ファンタジー」


 俗にアップルワームと呼ばれる虫は数種類居り、その生態せいたいも様々である。

 中でもコドリンガと言う種は、一つのリンゴの中で共食いをし、生き残った個体だけが五令を経てまゆや成虫になる事が出来る。コドリンガにとって、一つのリンゴの許容はコドリンガ一匹と言う事になる。

 コドリンガの幼虫はリンゴ等の表皮を食い進み、芯へと向かい、種子までも食害する。そして、時には他の果実へと移動する事も有ると言う。

 充分に成長したコドリンガの幼虫は夜に果実を脱出し、繭になる場所を探し、やがて成虫へと羽化する。


  * * *


 太陽系からはるか遠く、赤い恒星があった。

 この恒星も太陽と同じく熱と炎と光を発しているが、可視光線と大気の環境から、周囲の星からは真っ赤な恒星に見える存在として君臨していた。

 しかしその恒星は、今や赤く無かった。内部の可燃かねんガスが尽きかけており、光を失い、黒く小さくなっており、恒星と呼ぶには明るくなくなっていた。

 いわば、この恒星系は全体が常夜になってしまっていた。


 その時の事である。すっかり黒く小さく暗くなってしまった、かつて赤かった恒星がムズムズと音を立てそうな様子で盛り上がった。

 恒星の盛り上がった部分を見ると、中から何かのシャクトリムシが出て来た。

 シャクトリムシは恒星の内部のガスを食べ尽くし、恒星から這い出て来たのだ。

 恒星から出て来たシャクトリムシは、新しく住むべき恒星を探すべくかつて赤かった恒星を捨て、新しい住まいになる恒星を探すべく宇宙を蠕動ぜんどうし始めた。

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