第五百四十二夜『マジマジと見る-watchmen-』

2023/12/29「海」「人形」「最弱の計画」ジャンルは「指定なし」


 昼食をるために近所のスーパーへ足を運ぶ。これは、その時にあった出来事だ。


 おにぎりのたなに、零距離接射ゼロきょりせっしゃでもするかの様におにぎりのすぐ真ん前に顔を置いている男が居た。繰り返すが、零距離接射の姿勢しせいでおにぎりを見ているのだ。つまりはおにぎりを手に持ってるのではなく、おにぎりの前に水平かつ目の前に顔を置いているのだ。

(な、何だは?)

 私はひどく困惑した。だってそうだろう、あなたもきっと同じ場面に遭遇そうぐうしたらそうなる。そして何より、私が買おうと思っていた海鮮かいせんおにぎりの前からじっと顔を置いたまま動かない。

(こ、これはどうしたらいいんだ?)

 落ち着け、落ち着くのだ私よ。作者やキャラクターの考えを読むのは、小学校の国語でもやる必修技能だ。エレメンタリー、こんな小学生レベルの問題も解けないのか?ワトソン君。彼はきっとメガネを落としてパッケージの文字が読めなくて難儀なんぎしているに違いない。いやダメだ、横眼にチラッと見たところ、目を皿のように見開いていて目を細めていない、視力が弱い様子が見られない。

 ところでこの一帯は治安が良い。空き巣や暴力沙汰ぼうりょくざた警察けいさつが出て来る事なんてとんと聞かないし、このスーパーも監視カメラが設置してあり、何かあったら警備会社けいびがいしゃに報告が行く仕組みだ。

 そんな地帯の住民なのだから、あれが何か犯罪の予備行為よびこういとは思えない。それに、あんまり相手の事をまじまじと見るのも失礼と言うものだ。

 私は何も見なかった事にして、おにぎりの棚を後にした。


   * * * 


「それでどうだ、新型の偵察機ていさつきの様子は?」

「ええ、こちらの中継をごらんください。この様に細かい文字も事細かに見えます」

「素晴らしい! それでこれはどこの映像だ? どこか食糧販売店しょくりょうはんばいてんの様に見えるが」

「ええ、無作為にえらんだスーパーマーケットに潜伏せんぷく……いいえ、堂々と投入しております。人型故に視界が狭いと言う欠点はあるものの、この様に周囲の人々から怪しまれて凝視ぎょうしされておりません、完璧かんぺき擬態ぎたいだと断言出来ましょう!」

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