第五百四十三夜『言われてやった罪-red tape-』

2023/12/30「人間」「動物」「穏やかな世界」ジャンルは「王道ファンタジー」


 地獄じごくの裁判所で、罪人が裁判にかけられていた。

 裁判長らしき人物は角を二本生やした妙齢みょうれいの女性で、良い言い方をするならば地獄の鬼の様な外見ではなく、悪い言い方をすると地獄の裁きつかさにはとても見えないし、そもそも地獄の様子を描いた絵でも見た事が無い様な顔だった。

「証言の必要はありません、被告は如飛虫堕処にょひちゅうだしょへ。それではこれで閉廷……」

 裁判長らしき妙齢の女性は、口を開いたと思ったらその様な事を早口で言った。いくら何でも、被告人にもこれはおかしいと分かる。彼は目を白黒して唾をまき散らして混乱した様子で叫び始めた。

「ま、待て! これは裁判なんだろ? こんな横暴おうぼうが許されるのか? そうだ、弁護士べんごし! 弁護士をつけてくれ!」

 そう叫び声を挙げる被告人に対して、裁判長らしき妙齢の女性は溜息を一つ。世をうれう様子で額に手をやり、呆れの念を示した。

「そう言いますがね……貴方の様な罪人の裁判は今や山ほどあり、一度一度の沙汰に時間をかける事は出来ないのですよ」

「横暴だ! 滅茶苦茶めちゃくちゃだ! 支離滅裂しりめつれつだ! せめて自己弁護をさせろ!」

 罪人の横暴な物言いに、裁判長らしい妙齢の女性はカチンと少々頭に来た。

「よろしいですか? 繰り返しますが、貴方の様な罪人の裁判は山ほどあるのですよ。の裁判は山ほどあるのです!」

 そう言うと、裁判長らしき妙齢の女性は脇に置いてある鏡を指差す。そこには、罪人が生前行っていた数々の悪質な転売を映していた。

「これで証拠不十分だとは言わせませんよ。地獄に来る人が増えてしまい、今やこの様な罪人に質問をする機会きかいも与えられない地獄式略式裁判をせざる得ないし、私の様に十王でもない若輩者じゃくはいものが地獄の王代理を任命され、略式裁判を任せられるのですから……今回の様な簡単な沙汰くらい、手短に終わらせてほしい物です。せっかく悪質転売屋が落ちる専用の地獄があると言うのに、貴方の様な助命嘆願じょめいたんがんが有っては本末転倒と言う物です……」

 地獄の王代理の女性は、明らかにイライラした様子で自分の置かれた状況を語った。その様子たるや、自分にその権限があれば眼前の男の舌をでねじりへし斬ってやる! と、そう息巻いている様ですらあった。

 罪人はその様子を感じ取り、しかしそれでも言い逃れをしようとする事は諦めていなかった。

ちがうんです! 俺はグループのリーダーから頼まれただけで、俺は悪くない! 俺じゃなくて転売屋のリーダーが悪いんだ! 俺はリーダーに言われてやっただけなんだ!」

 罪人の命乞いを聞き、地獄の王代理の女性はニッコリと満面の笑みを浮かべた。

「ごめんなさいね、私も上に言われて貴方と言う罪人を裁いているだけなんです」

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