第五百三十六夜『あなたの願い、半分叶えます-Fledgling Djinn-』

2023/12/22「火」「裏取引」「壊れたツンデレ」ジャンルは「純愛モノ」


「俺を呼んだのはお前か? 俺を呼んだからには、とっとと願いを言え。そうでなければお前をこの場で殺す」

 部屋に硫黄の臭いの煙が充満し、床に描かれた魔法陣まほうじんからは、角とつばさが生えた半裸の人物が腕を組んでいた。悪魔だ。

 悪魔は半ば不条理な物言いをしていたが、悪魔を呼んだ人物からしたら承知の上、それも願ったり叶ったりだった。

「お前は私の願いを叶えてくれるのだな? きちんと私の願いを叶えてくれるのであれば、自分の身なんて惜しくはない。命でも魂でも好きにするがいい」

 悪魔を呼んだ人物は啖呵を切る様な口調くちょうでそう告げるが、すると悪魔は目を閉じて彼の言葉を否定した。

「いや、俺にはお前の願いを叶える事は出来ない。何せ俺は半人前の悪魔だからな、お前の願いは半分しか叶える事は出来ないし、対価も半分でいい」

 これには悪魔を呼び出した人物は大いに面食らった。何せ悪魔と言うのは人間をだまし討ちの様にするものだと思っていたし、この様に譲歩じょうほや妥協を言う悪魔なんて想像もしていなかったのだから無理も無い。

「願いが半分しか叶えられないのでも、別にかまわない。私の人生は、常に不条理と敗北と嘲笑ちょうしょうの連続だった。私に少しでも関わった連中全員に、私が受けたはずかしめの半分でも味合わせてやれば、それで十分。と言う奴だ!」

「なるほど、分かった」

 悪魔はそう言うと、自分を呼び出した人物の背を掴み、大きくその場でジャンプする形で引っ張り上げ、天井を突き破ってはるか上空まで翼を使って飛んで行った。

「す、すごい! 飛んでいる!」

「こんなもの、半人前の俺でも朝飯前だ」

 悪魔を呼び出した人物は突然とつぜんの出来事に目を丸くしておどろき、悪魔の方は落ち着き払って言った。

 眼下には悪魔を呼び出した人物の過ごした街が小さく見え、彼にはこれまでの人生が文字通りちっぽけな物に思え始めた。

「それで、私達はどこまで飛んで行くのですか?」

「勿論、願いが叶うまでだ」

 悪魔を呼び出した人物と悪魔は雲よりも上空まで飛んで行き、ついには眼下の街すら見えなくなってしまった。

「おい、なんだか体が変だ。本当にこれで願いが叶うのか?」

「叶うさ、悪魔は契約をたがえない」

 そう言った次の瞬間しゅんかん、悪魔を呼び出した人物の全身の体液、即ち唾液や涙や尿にふん等々……全身の液体と言う液体が蒸発してミイラになってしまった。

 どんな山よりも遥か上空、水の沸点は摂氏40度を下回り、人間の生存圏せいぞんけんを直接的にも外れてしまったのだ。この環境では悪魔の契約者と言えども、生きてはいけない。悪魔を呼び出した人物を形成していた液体は空中で飛び散り、落ちて行った。


 * * *  


 その頃、地上の街では人々がせわしなく歩いていた。そして、ある人物が空から何かが降って来た事に気が付いた。

「おや、雨か? 天気予報が外れるなんてついてないな」

いやになるわね、まあ運が悪かったと思って諦めましょう」

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