第五百三十三夜『子供の新しいあやし方-get a star-』

2023/12/19「本」「観覧車」「真の幼女」ジャンルは「童話」


 ある昼の事、小さな女の子がぐずり始めた。

「どうしたの? 眠いけど目が覚めちゃったの?」

 女の子の母親は女の子がぐずるのを見て、彼女をあやしはじめた。

 女の子の最近のお気に入りは、アニメーション付きの童謡どうよう。テレビの放送であったり、コンピューターで流すアニメーション付きの音楽を聴くとぐずるのをやめるのだ。

「はいどうぞ、お星さまよ」

 女の子の母親は自分の携帯端末けいたいたんまつを操作し、お気に入りの動画投稿サイトから、遊園地ゆうえんちと星空を背景に星の童謡が流れるページへアクセスした。女の子はこの動画がお気に入りで、これを流せば立ちどころに泣き止んでしまう。

 しかし、今日の女の子は泣き止まなかった。お気に入りの筈の動画をても全く泣き止む気配が無い。それどころか、先程より大きな声で泣き始めたではないか!

「どうしたの? お星さまの動画じゃダメ?」

 女の子の母親は、それならばこれでどうだと、星型の幼児用クッションを女の子に手渡てわたした。これもまた女の子のお気に入りのオモチャで、これを渡されると小さな手でとクッションを笑顔でいじり始める。

 しかし、今日の女の子はそれでも泣き止まない!それどころか、先程よりも更に大きな声で泣き始めたではないか!!

「どうしたの? いつもならこれで泣き止むのに……」

 疑問を口に出す女の子の母親、母親と言うのは強い生き物で、ちょっとやそっとでは何ともないのだ。しかしかわいい我が子が泣き止まないというのは、かなり心苦しい物がある。内心彼女はで、何とかして女の子をあやそうとした。

「うーん、これはどうしたものかしら?」

 女の子の母親は一寸思案、そして即座に一つのアイディアが思い浮かんだ。本棚ほんだなから児童書じどうしょを取り出して、読み聞かせる。すると女の子は途端とたんに泣き止み、人が変わった様に母親の朗読を静かに聞き始めたではないか!


 * * * 


「そして、王子様は空へと帰っていきました。はい、これでおしまい。それじゃあ、おやすみなさいね?」

 母親の朗読を静かに聞いていた女の子だが、その言葉を聞き、母親が本を閉じた途端に泣き始めた。それどころか、先程よりも更に大きな声で泣き始めたではないか!!!!

 これには母親も大弱り、何とかして女の子をあやさなければいけないと言う焦りすら覚えた。

 もうこうなれば発想の逆転の一手、一事が万事の常套手段じょうとうしゅだんである。即ち、母親は女の子が好きな星の童謡を自ら歌いだした。

 すると女の子は、またしても黙って母親の歌を聞いていたが、歌が一周するとまた泣き始めてしまった。それどころか、先程よりも更に大きな声で泣き始めたではないか!!!!!!!!

「もうどうしたら良いって言うの! 本物の星でも欲しいって言うの?」

 もうこれには母親は大弱りで、最終手段に訴える他なかった。即ち、コンピューターを操作して女の子の父親に通信を取りつないだのだ。

『もしもし? あなた、赤ちゃんが泣き止まないの! きっとあなたの顔を見たら泣き止むと思うの!』

『急に何かと思ったら、そんな事か。ほら、お父さんだよ』

 女の子はコンピューターの画面に映った父親を見ると、またしても泣き止んだ。女の子は喋れないなりに父親とコミュニケーションを取り、そしてすっかり機嫌きげんがよくなり、そして泣きつかれたのか眠ってしまった。

「ありがとう、助かったわ。この子ったら急にぐずり始めて、全然泣き止まなくて……それじゃあお仕事頑張ってね!」

『ああ、分かった。それじゃあまた、今からうちに帰るのが待ち遠しいよ』

 そう言うと、宇宙服姿の男性は通信を切った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る