第五百三十一夜『王様のささやかな遊び-lady Godiva-』

2023/12/17「戦争」「絨毯」「穏やかな遊び」ジャンルは「大衆小説」


 ある大きくはないが、みすぼらしくもない国で、王様がパレードをしていた。ただ一つ特異な点を挙げると、王様は裸だった。

 裸と言っても全裸で歩いている訳ではない。肌着以外何もつけておらず、それにも関わらず肌着の上に豪奢ごうしゃな衣装を着ている様に馬上で振舞っていた。

「王様万歳ばんざい!」

「なんてかっこいい衣装なんだ!」

「視える、私にも素晴らしい衣装が見えるぞ!」

「すごい! なんて立派な馬と乗馬の様子なんだろう」

 国民は皆、肌着の王様の事を異常なものを見る目では見ていなかった。ある者は王様を漠然とめ称え、ある者は具体性を欠いた賛美さんびを行ない、またある者はふんわりとよく分からない肯定の言葉を口にして、更にまたある者は裸である事を無視して無理矢理褒める場所を探した。しかし王様を褒める者ばかりではなく、肌着姿の王様を存在しないものと扱い、気づかなかった振りをした者も居た。

 しかしその一方で、裸で馬に乗っている男を王だと本心から気付かない人は居なかった。何せこの国の通貨を見れば、王様と同じ顔が描かれているのだから、王様の顔の知名度は100%と言うカラクリだ。

 平たく言うと、王様を裸だと指摘する者は誰も居なかった。


 王様は一通り大通りを回った後、王城に戻った。

 別に彼は詐欺師に裸にされた訳では無い。では何故裸同然の姿で城下町を練りまわっていたかと言うと、それは彼の趣味しゅみに外ならない。

 彼には同盟国が複数あり、外交に問題も無く、中は良好だった。

 しかし、この同盟国や外交相手がよくなかった。ある同盟相手は、城主自ら城下町で王城案内ツアーをした事で知られていた。またある同盟相手は、妃が紆余曲折あって全裸で馬に乗って城下町を走った話が美談として知られていた。また別の同盟相手はそんな事実は無いにも関わらず、何故だか裸踊りの名手と言う話で通用していた。

 これらの逸話は、王様の功名心と似た様な好奇心や、一種の猜疑心さいぎしんの様な物を掻き立てた。

(君主が裸で城下町へ出て来たら、臣民はどう反応するのだろう?)

 これが支持率の低い君主であるならば、王様は裸だと大音声だいおんじょうを挙げて民はよろこぶだろう。人間、口実が有れば革命だってクーデターだって喜んで行なうものだ。

 では逆に支持率が高い君主であるならば、どうなるか? 親切心から裸だと指摘をしたり、衣服を与えるのではなかろうか? もしくは国家の制度や君主の人となりが立派であるならば、見返りや打算から衣服を与えて恩を売ろうとするかも知れない。

 そして王様は一つの可能性に思い当たり、それを実行する事にした。

 即ち、政治に無関心な民は、支持率がそれほど高くも低くもない君主が裸で外に居ようとも、我関せずを決め込むのではなかろうか?

 こうして王様は肌着で馬に乗り、城下町を度々練り歩いた。勿論一国の主が身一つで裸同然で外に出る訳にもいかず、衛兵えいへいを伴ってだ。

 王様はこの奇行を「視察を行って民を試す……いや、民が皆親切で心の清いと言う事を証明する」と言って、制止する家来達を説き伏せた。

 結果は上記の通りだった。王様はこの結果を、争いごとやきらう、穏やかな民ばかりなのだと誇り、衛兵達も「さすがは陛下」とただただ感服する他なかった。


 その頃、城下町で馬丁ばていが馬丁仲間と話をしていた。

「えっ、今日『王様』来てたの?」

「来てた、来てた。勿論今日も、肌着以外何も身に着けずに馬に乗ってたぜ」

 馬丁は馬丁仲間の言葉に目を輝かせるやら、残念がるやらの様子を見せた。

「しかしまあ、王様のそっくりさんが乗馬のパフォーマンスだなんて、考え付いた人は天才じゃなかろうか?」

 馬丁の言葉は皮肉でも何でもなく、むしろ羨望の念が込められていた。

「ひょっとしたら、王様のそっくりさんと思わせて王様本人かも知れないぜ?」

「馬鹿な事を言いなさるな、どうして王様本人が裸で外に出ているなんて事があり得るのさ?」

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