第五百二十七夜『チラシの裏-heart attack-』

2023/12/13「黄色」「終末」「荒ぶる殺戮」ジャンルは「ミステリー」


「またこれか……」

 私がネットサーフィンをしていると、と言う趣旨しゅしの主張を行なっている人が居た。

「最近は大人しかったけど、また出て来たのか……」

 私はこの文句を見る度、心臓しんぞうを冷たい手で鷲掴わしづかみされた様な感覚に陥る。私の事を指して言ってるとは限らないが、何故か私の事を知っているぞと言う文言に見えてしまう。

 何せこの『作家は体験した事しかかけない』と言う文言、実は私に当てはまっているのだ!

 例えば私は、作中の登場人物にとりを丸ごと一羽完食させたり、豆苗を育てて収穫しゅうかくして調理させたり、カードゲームにきょうじじさせたりさせている。

 この様な他愛の無い事は別にいい。他にも私は、作中の登場人物に麻薬等取締法まやくなどとりしまりほう抵触ていしょくする単純所持、死体遺棄したいいき外患誘致がいかんゆうちに加えてその他諸々……数え切れない程の犯罪行為を、それこそ百以上行なわせている。やらせていない犯罪は恐らく放火と痴漢ちかんと飲酒運転くらいの物ではなかろうか? 付け加えると、この手の話題でよく話題になる贈収賄罪と独占禁止法違反どくせんきんしほういはんもコンプリート済みだし、しょっ引かれていないだけで決闘罪けっとうざいに問われる様な事は日課、肖像権侵害や著作権侵害も泣き寝入りする相手を選んで何度も行なわせている。この間は偽計業務妨害ぎけいぎょうむぼうがいに風説の流布に名誉毀損めいよきそんもさせてやったし、当然公然猥褻罪こうぜんわいせつざいなんての昔に完璧かんぺきにこなさせている。

 つまり、この発言主は私に対してタマを握っていると言っても過言ではない。何故なら『作家は体験した事しかかけない』のだ。

 故に、私は違法な物品の所持、殺し、危険運転、ついでに窃盗せっとうと強盗と無銭飲食もしたし、売国の罪の他、一日に二度核爆弾かくばくだんを落とした事もあり、更にはその材料のイエローケーキを量産りょうさんもしていて、つまりは戦争犯罪者でもある。どこへ出してもずかしくはない、立派な犯罪者だと言えよう。

「折角しずかになったと思ったのに、何で定期的にどこからともなく湧いてくるのだろうか?」

 私は誰に聞かせる訳でもなし、携帯端末けいたいたんまつを操作して知り合いと連絡を取る事にした。

「推定無罪だが、いつ何時なんどき背後から刺されるかも分からない。念には念を入れておかねばな」

 私は痴漢と放火以外のあらゆる犯罪(飲酒運転は行なっていないが、危険運転は行なった事があるので些事さじ見做みなす)をやったと言ったが、当然そこには教唆きょうさの罪も含まれている。

 教唆の罪とはなんぞやと言うと、この場合は他人に人を殺す様に頼む、俗に言う殺人教唆の事を指す。

「もしもし? お世話になっております、私です。また消してもらいたい人物が居るのですが……ええ、はい、資料を送ります。心臓麻痺しんぞうまひか何か、持病の悪化に見える様な奴でお願いします。ええ、はい、お世話様でした」

 何せ私はくだんの発言主のせいで、心臓がバクバクと破裂しそうになっているのだ。この様な手段に出るのも、一種の回避行為かいひこういと強弁しても許されるだろう。

 何せ『作家は体験した事しかかけない』のだ、やむを得ない理由で殺人や殺人教唆を行なうだなんて、それこそ手垢がビッシリと付いた程に作劇的だと言えよう。

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