第五百二十五夜『治安維持部の新しい防衛手段-I'm not a Robot-』

2023/12/11「黄色」「機械」「ゆがんだ大学」ジャンルは「ミステリー」


『大統領、逮捕される!?』

 そう見出しがついたインターネット上の書き込みだが、確かに我が国の大統領が二人の警察官けいさつかんに連行される様子を映したが投稿されている。

 しかし一見本物の写真にしか見えない画、これは実は人工知能が生成したフェイクである。

 この投稿を行なった人物は、偽計業務妨害、風説の流布、肖像権の侵害、名誉毀損めいよきそんかどで逮捕される事になった。

 これが公人ではなく私人であるならば、真偽しんぎの判別が困難こんなんだったであろう事は不幸中の幸いか? いいや、デマゴーグの流布などあってはならない事であり、不幸も幸いも無い。

 今回の件は、大統領が逮捕されたと言う事実が存在しないのだから見破るのは容易だった。しかし、見破るのが容易でない巧妙なフェイクであるならば、この為に編成された解析版にお呼びがかかる。これは対サイバー犯罪特別治安維持部、通称治安維持部と呼ばれている。


 なげかかわしい事に今日もまた、治安維持部に仕事が飛び込んで来た。

 今日の捜査内容なのだが、大臣が気の狂ったような卑猥ひわいな内容の演説をインターネット上で行なっていると言う内容の物。

 言うまでも無くこれは虚偽きょぎの内容、声を加工してそれらしく加工して実際に大臣が実際に気のれた様な卑猥な内容の演説を行っている様に見えかけている物である。

 勿論大臣が酩酊めいていしていたとか錯乱したと言う訳ではなく、事実その演説の内容も正気の素面しらふと見える表情で行なっている訳で、裏を取るまでも無く悪質なデマゴーグとして処理された。

 この件もまた、偽計業務妨害、風説の流布、肖像権の侵害、名誉毀損に加えて公序良俗違反こうじょりょうぞくいはんの廉で逮捕される事になった。


「全く、なんだってやっこさんら、あんな捕まるに決まっている様な悪さをするのかね?」

 そうコーヒーをすすりながらボソリ呟くのは、治安維持部に所属しょぞくする捜査官。

「そりゃ、ああ言う輩は捕まらない、捕まる筈が無い、捕まると事だって理解していない……そんな感じで犯罪に手を染めるのでしょう」

 捜査官の独り言に返答したのは、同じくコーヒーを啜りながら休憩中きゅうけいちゅう若輩じゃくはいの捜査官。

「どうにも分からんな、酒のいきおいでと言うならまだ理解出来るが、食うに困っての犯罪でもなし、なんであんな手間のかかる犯罪をわざわざする? もっと他の有意義ゆういぎな事に才能を使えばいいだろう」

 年配の捜査官は呆れた様子で、溜息を吐きつつ言う。それに対し、若輩の捜査官も同じく呆れた様子で口を開いた。

「それはアレですよ、人間ってのは武器を手に入れたら振るわずにはいられないものなんですよ。それが銃でも才能でもソフトや編集へんしゅうする力でも同じ、人間はおろかって奴ですね」

 そんな額にしわを寄せつつコーヒーを啜る捜査官二人だが、そんな二人の元に捜査するべき事件がまたしても舞い込んだ。

「どうやらまた、俺らの管轄かんかつの事件らしい。どれどれ」

 そう言って二人の捜査官は添付された画を見る。資料に因ると、この画で問題になっている男性はある大学の権威けんいと言うべき教授で、どうやら彼が同じ大学の生徒とおぼしき金髪きんぱつ魅力的みりょくてきなうら若い女学生と仲睦まじくうでを組んでホテルに宿泊しようとしている様が見て取れた。

「人工知能による生成だな」

「人工知能による生成ですね」

 綿密な捜査の結果、その様な運びとなった。次はこの捜査結果を他部署に送るだけであり、それ以外はいわゆる管轄外と言う奴だ。

 何せ治安維持部の仕事は治安維持なのだ、蜂の巣を突いて治安を乱す様な事をする部署ではない。

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