第五百十四夜『セックスしないと出られない空間-fruitful and multiply-』

2023/11/28「灰色」「虫アミ」「過酷な運命」ジャンルは「ラブコメ」


「おい! ここはどこだ! 俺をここから出せ!」

 俺は気が付くと、木造の部屋に居た。記憶の最後にあるのは、何か投げあみの様な物で捕らえられたところだ。

 恐らくは身動きを取れなくなったところを何かで眠らされて、この場所に移動させられたのだろう。全く、汚い人間も居たものだ!

無駄むだだ、その部屋は私の意のまま閉じ、私の意によってだけ解放される』

 俺が部屋に向って吠えると、それに呼応した様に声がした。声の言っている意味は分からないが、俺は偉そうな喋りだと感じた。

「何を言ってんのか分からねーよ!とっとと俺をここから外に出せ! 神様にでもなったもりか?」

 俺は相手に反応があったため、威圧的いあつてきな声の持ち主に対して反射的に牙を剥いた。仮に俺が平常心だったとしても、この環境に置かれたら猫なで声ではいなかっただろう。

『その通り、私の言葉は神の言葉だ。故に私の言葉は絶対であり、貴様は私の指示に従わない限り一生外に出ることは出来ない』

 威圧的な声はコミュニケーションを取る積もりは初めから無いのか、更に独りよがりで威圧的な物言いを始めた。最早俺は、完全に怒り心頭と言う奴だ。滅茶苦茶めちゃくちゃに扉と思しき場所に爪を立てて道をひらこうとするも、全く全然手応えが無い。

「クソが! 何を言ってやがる! いいから俺を外に出しやがれ」

『まあ待て、君をこの私の船に招いたのは他でもない、君にはここでしてもらいたい事がある。そこに君の伴侶をした、君達はこの場でセックスをしろ』

「何だと?」

 この木の部屋には俺以外には居ないだろ! そう口にしようとした瞬間しゅんかん、俺の鼻腔びこうが異変を感じ取った。女性の、それもとても魅力的みりょくてきで思わず鼻で貪りたくなる様な、女性の良い匂いがした。

 俺がハッとして振り返ると、その場には口では表現が不可能な程に美しい女性が居た。まだ幼さをわずかに残すよわいだが、しっかりとした妙齢の女性で、毛色は美しい金色、どことなく箱入り娘と言った雰囲気ふんいきをまとっていて、顔は愛らしくも目をく素晴らしい鼻で、肢体も非常に肉感的な上、ボディラインは世界一美しいネコ科が居たらこの様な女性ではなかろうかと言う様相……だけど、その何百倍も美しい!

おどろいたか? 何せ私の言葉は神の言葉なのだからな、伴侶を用意すると言ったのだから、伴侶は用意出来たのは絶対なのだ。君はきっと彼女の事を気に入ると思うぞ、何せ私の言葉は神の言葉だからな』

 威圧的な自称神の声はそう言った。こんな、ただただ正視だけし続けていたら正気を失いそうな美女をどこからともなく音も無しに用意したのだ、本当に神様なのかも知れない。

 俺はこの娘とセックスをすればいいのか? 俺はそう喉をふるわそうとしたが、声が出なかった。彼女の事に全ての思考をうばわれ、自称神の声の事を考えれずにいた。俺には、すぐ目の前の美女しか世界が無くなってしまっていた。

 そして、それはどうやら向こうも似たような状況らしい。彼女はこの木造の部屋に連れて来られた怒りや困惑は見られず、俺の事を唯々ただただまっすぐ見ていた。

『そうかそうか、互いに気に入ったか。もっとも、私の声は神の声なのだからな、私が気に入ると言ったら気に入るのは道理と言うものだ。それでは、

 俺は自称神の声がそう言うのを聞くと、他の何も考える事が出来なくなり、文字通り野獣やじゅうそのものになって彼女と体を重ねた。


 大荒れの曇天どんてんの中を進む大きな木造船の中、船乗りが船内の様子を見ながら船内放送を行なっていた。彼は船長であり、それに加えて預言者でもあった。

 預言者と言うのは神の言葉を伝える人物であり、彼の言葉は文字通り神の言葉であった。神の言葉は絶対であり、彼が預言者としての務めを果たしている間は、彼の言葉は即ち地上にあって絶対的な命令として機能していた。

 繰り返すが、彼の言葉が絶対なのは神から授かった務めに関する物に限る。例えば、独り言を言ってもそれは業務外なのであって、絶対的な権利でも何でもない。

「これで、ライオンの繁殖はんしょくは良しと。しかし、全ての清いけものと言うのはいやはや……」

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