第五百十二夜『秘密のアーケードゲーム-polybius-』

2023/11/25「砂」「ファミコン」「残念な子ども時代」ジャンルは「偏愛モノ」


 私が小さい頃、近所のゲームセンターに気になるアーケードゲームがあった。

 このアーケードゲームは諸事情から、何某なにがしと言うタイトルだったと仮定する形で呼ばせてもらう。

 私はこの何某で遊びたかった。それだけ何某は私に対して魅力的みりょくてきに映ったのだが、それは何故かと言うと、そして遊びたかったと言う過去形で表現しているかと言うと、何某は昔ながらのアメリカ式のアーケードゲームで、コントローラーのある位置の高く、加えて椅子も配置していない筐体だったのだ。

 こうした理由から、私にはプレイ出来ない何某が魅力的に映り、そして結局プレイできないまま何某は撤去てっきょされてしまった。


 ここまでならば、ただの郷愁きょうしゅうの念の様な物を感じるよくある話だっただろう。この話は、ここからが本題になる。

 私が知らないうちに、そのゲームセンターに黒い服の人達メンインブラックが入り込み、その何某の筐体を運び出してしまったらしい。

 信じられるだろうか? そのうわさが本当だとしたら、政府の何とか言う部隊がわざわざゲームセンターに調査に来て、しかも自分たちの手でゲームの筐体を撤去したのだ! そんなのSF映画の中の様な話ではないか!

 当時まだ子供だった私はこの噂を聞き、胸をおどらせた。何せそんな不思議ふしぎな噂を子供が聞いたら、ワクワクして尾ひれをつけるのが道理だろう。

 私と友人らと様々な噂を交わした。

「あのゲーム機は宇宙戦争のパイロットのテストだったんだよ! 国家機密こっかきみつをずーっと置いとくのは危険だから、選別が終わったから持って帰ったんだ!」

「きっとあのゲームは危険なポリゴン映像を出すから、諜報機関ちょうほうきかんが武器にするために回収したんだと思う」

ちがうよ、あのゲームはきっとサブリミナル効果があるんだ! あのゲームで遊ぶと何か頭が変になるんだ!」

 全く子供の想像力と言うのはたくましい。たかがゲームセンターのアーケードゲームにそんな機能きのうがついている筈が無いし、そもそも黒服の人達がわざわざ取りに来るとは思えない。


 しかし、ここで大きな問題が一つ生じる。私はそのアーケードゲームを何某と呼んでいるのだが、これはそのゲームの名を伏せたくて呼称している訳では無い。私はそのアーケードゲームのタイトルを知らないのだ!

 何せ私はそのゲームの画面をろくに見れていなかったし、そもそもちゃんと見る事も出来なかったのだ。ゲームのタイトルを知らずに、後になってから名前を知ると言う事も度々あるだろう。

 しかし何某の筐体はどこにも無い。黒服の人達が持って行ったと言う噂が本当だとしたら、何かしらの重篤じゅうとくな問題が発覚したとしか思えない。いや、それでもアーケードゲームに何か発覚したとしても、わざわざ黒服が出張るとは全く思えない。

 一応この黒服の件については調べてみたのだが、これは憶測おくそく混じりの推理なのだが、恐らくあのゲームセンターは恐らく賭博とばくを行なっていたのではなかろうか? それならば、黒服達がゲームセンターに調査をしに来た事は理解出来る。

 たまたま黒服が調査に来たのと、噂で言われる様に何某に不備ふびがあって回収された。その時期が重なって、噂が完成したのではなかろうか?


 の話はここで終わり。しかしこのアーケードゲームに関する話には続きがある。

 あのゲームにはいわれがあるし、あのゲームのタイトルを知っている人物は更にもう一歩先に踏み込んでいった。

 ここから先は、このアーケードゲームにりつかれた彼の話だ。


 彼は何某のタイトルをはっきり覚えており、それについて自分で調査をしていた。その結果、何某のアーケード版は不具合から回収された事、そして何某はコンシューマーやアプリに移植される事も無く忘れ去られた事を突き止めた。

 なるほど、世間一般的にはただのつまらぬ不備があるだけのアーケードゲームであり、それ以外には秘密は無いと思った。

 しかし彼はここで躍起やっきになった。

「何がただのゲームだ! 秘密が有るものこそ、世間は秘密が無いと言い張るではないか!」

 彼は何某のアーケードゲームを探し、そしてまだ生きている何某のアーケードゲームが現存している場所を突き止め、その眠っている何某を購入こうにゅうする事にした。

 しかし相手方もさるもの引っ掻く者、何某がプレミアの付いたアーケードゲームだと言う事を知っており、可能な限り思いっきり吹っ掛けて彼に何某を売りつけた。

 しかしこのぼったくり行為は彼にとって、火に油を注ぐ行為。

「ほれ見た事か! ただのつまらないゲームなら、こんな値段で取引されるのはおかしいではないか!」

 彼は幸せな事に、嬉々として何某の法外な値段を払ってしまった。


 こうして届いた何某のアーケードゲームだが、世間が冷静れいせいに評する様に何の秘密も無い普通のゲームだった。宇宙戦争のパイロット選別テストなんて行なわれてないし、見る者の意識いしき崩壊ほうかいさせる点滅てんめつも無し、サブリミナル効果で異常な購買意欲こうばいいよくを掻き立てると言う事も無かった。皮肉な事に、彼はサブリミナル効果が無くとも異常な購買意欲を抱いていたのはお笑いぐさか。

 彼はようやく待望の何某で遊ぶ事が出来たが、その心象風景は砂漠の様、気分は砂をむようだし、大枚を払った事実に関しては砂地獄すなじごくに飲まれる様な気分にすらなった。

「こうなったら、損を取り返すためにもこのゲームを高く売りつけなければ……幸いこのゲームにはプレミアがついていて、きっと高く売れる筈だ!」

 そして彼は何某を高く売る方法を考えて、そして思いついた。

『噂は本当だったんだ、俺はあのアーケードゲームをちょっと遊んだ事があるが、あのゲームには何か秘密が有る!』

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