第五百八夜『完璧で究極の毒見役-Antidoto-』

 2023/11/21「灰色」「墓標」「真の流れ」ジャンルは「童話」


 王となるため、現王は先王を謀殺した。その先王も更に先王を、更にその先王も更に更にその先王を……


 この国では王や君主とは、即ち暗君の事だった。理由は色々あるが、そういう習慣だったと言うのが近い。

 例えば、先王の暴虐ぼうぎゃくに耐えかねてクーデターを起こして次の王になった人が最初に目にするのは、無茶な財政難ざいせいなんだ。重税を課さねば軍を始めとした家来に給料を払う事が出来ないし、重税に耐えかねてクーデターを起こしたなら国家公務員の給与を大幅カットする以外の選択肢せんたくしが無い。こうして今度は民にタダばたらきを強要する暗君が誕生する訳で、自然と次の暗殺の対象となった。

 こうして、この国では王になるには、現在の暗君を暗殺しなくてはならないと言う習慣が出来上がった。故に、もっともおろかな人だけが王の座を目指すとまで言われている。

 そうなると、生まれてくる需要が暗殺だ。ある人はくぐもった音を立てて弾丸を発する単筒を開発し、ある人は王城の見取り図を秘密裏ひみつりに売ったりしており、最たるものとしては毒娘なるものを開発する人すら居た。

 毒娘とは、生まれた時から体重に応じた少量しょうりょうの毒物を摂取させ続けられ、結果として如何様いかような毒も通用せず、その一方でと言う暗殺者である。この毒娘が貢物みつぎものだったりハニートラップとしてターゲットのふところもぐり込んだら、文字通りターゲットは昇天すると言う訳だ。

 実のところ、この国の暗殺の歴史としても毒殺は度々見受けられる。故に毒娘と言う眉唾まゆつばものの存在も、当事者たちとなっては信じられると言える。


 ある時、時の暗君が自身が毒殺される事を懸念けねんした。事実、自分も先王を毒殺したのだから、毒見役を用意する事はに考えた。

 しかし、この国では暗君は暗殺される運命にあると言う風潮ふうちょうなのだ。毒見役と言うのは、即ち緩慢かんまんな死刑宣告であり、そんな仕事を任されるくらいなら毒見役が毒を盛りかねない。

 故に誰も暗君の毒見役になりたがらず、しかしこれを無理矢理毒見役にしたら今度は暗殺をする大義名分たいぎめいぶんを与えてしまう。

 君主には一切のグレー行為が許されず、暗殺されたくないと役職やくしょくを任命したら暗殺されてしまうのがこの国なのだ!

 このままでは暗君は缶詰と瓶詰びんづめで一生を過ごさないといけなくなりそうなものだが、彼には一つの秘策があった。毒娘だ。

 彼には暗君になる前からパイプを持っていた毒娘が居り、これに毒見役に任命しようと思ったのである。何せ如何様な毒も通用しない改造人間なのだ、毒見役には最適さいてきで、毒が通用しないのだから上述の理由で毒を盛られる理由も無い! 毒娘を毒見役に宛てると言うアイディアを考え付いた時、暗君は自分が天才なのではないかと自画自賛した。

 そうとなれば善は急げ、早速毒娘に自分の毒見役を命じた。何せ何のリスクも無しに宮仕えになれる上に王宮の料理が食べられるのだ、毒娘の方も快く応じてくれた。

「ええ、大変美味しい料理です陛下。体の方も特に何ともありません」

 毒見役になった毒娘が一口だけ料理を口にし、そして差し出したあたたかい料理を(そう! 缶詰でも瓶詰でもない、暖かい料理だ!)暗君は安心して口にした。

 そして、その暗君はそれから……

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