第五百七夜『いのちをだいじに-large as life-』

 2023/11/20「白色」「妖精」「嫌なかけら」ジャンルは「指定なし」


 ある所に、フールフールと言う者感心出来ない男が居た。彼はその名の通り愚か者フールであり、トンチンカンな事を言っては周囲の人間から軽蔑けいべつされていた。

「クマさんの駆除はクマさんに対する人権侵害じんけんしんがいだ! 今すぐやめろ!」

 彼はその名の通り愚者愚者フールフールな事ばかり言い、そして彼はその名の通り愚者なので他人の言う事を聞いて成長するなんて事もない。

 付け加えて言うと、そんな無茶苦茶な名前の人間が実在する訳が無い。よって、こんな無茶苦茶な発言をする人間と言うのは一種の狂言であり、フィクションである。あんな主張をする人間が実在してはたまらない。

 周囲の人間はクマの人権と言う支離滅裂しりめつれつな言葉に沸き『クマに人権等ある訳無い』『クマに人権があるならば、税金を払って貰わないと困る』『人権は人間のための物ですよ』『そもそも人権と言うのは……』と揶揄やゆるやら、フールフール馬鹿馬鹿を心配するやら様々な、されど同じ一つの切り口の言葉をかけた。

 しかしフールフール(自由、わがまま、軽はずみ、落第、閉じた可能性等を示すタロット)は文字通り愚者なのである、曖昧模糊あいまいもこなのである。

「クマさんだって生きているんですよ! クマさんが可哀想じゃないんですか?」

 自分の感情のおもむくままに、軽挙妄動染みた発言を上塗うわぬりしていく。

 これには『乳牛や肉牛も生きているぞ』『野菜も果物も生き物だ』『そんな主張じゃ虫も殺せないぞ?』『それを言うなら微生物びせいぶつも……』フールフールを言い負かそうとする者、間違いを正してあげようという者、啓蒙けいもうしてあげようとする者が出たが、THE FOOLにはまさしくぬかに釘。指摘されるたびにムキになって引っ込みがつかなくなってしまう。

「心無い奴め、!」

 そう捨て台詞を吐き、引きこもってしまった。


 時は移り、今は真夜中。フールフールはベッドで横になっていた。

(全く、何であいつらは可哀想な動物を殺すんだ……)

 その様な事を無い頭で考えつつも、意識いしきは夢に落ちて行った。

 そこで少々奇妙な事が起こった、彼の体に何かがたかっているのだ。

 むしだ。フールフールの体に無数の蚊やゴキブリの様な害虫がたかっていた。

「う、うわあああ!」

 しかし夢と言うのは厄介なもので、夢の中で肉体が一切動かせないと言う事も珍しくない。フールフールは首から下を蟲にたかられているものの、手で払う等の抵抗が一切出来ないでいた。

 しかし、それだけではない。彼の視界には何か蟲の様だが蟲ではない何かが映った。緑や白や赤銅しゃくどうかがやく小さな点々が眼球の中でうごめいていると言った様相であり、これが何を指し示すのか、彼の知識の中にはなかった。

 ところで人間は生きるために食べ、飲み、呼吸をしているが、空気や水の中には大量たいりょうの微生物が含まれている。人は武器を持たずとも、ただそこに生きているだけで多くの生物を取り入れているのだ。言い換えれば、無益でない殺生は今この瞬間しゅんかんも、自身の身でも自然しぜんに起きていると言える。

「なんだこの細かい生き物の様な物は!?」

 微生物の群は、フールフールの眼球の上であったり口腔こうくうであったりにビッタリと張り付いた。微生物と言えど、大量に集合すれば赤潮あかしおがそうである様に目視が出来る。

 フールフールは意味が分からないまま、悪夢にさいなまれる他無かった。彼は朝になり目が覚めるまで、害虫や微生物に全身をたかられ続ける事になった。

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