第五百四夜『無人販売の野菜売り場-peacemaker-』

2023/11/17「野菜」「ロボット」「正義の廃人」ジャンルは「ギャグコメ」


 ある町に野菜の無人販売所があった。その無人販売所はロッカーで自動販売機じどうはんばいきの様な様相をしている訳では無く、本当に簡素かんそで防犯装置のたぐいも全く無い、本当に無人販売所らしい無人販売所だった。

 これを見ておどろいたのは、都の方から来たセールスマン。彼は監視カメラや刺股さすまた等の防犯グッズを取り扱っており、この様な防犯意識ぼうはんいしき希薄きはくな土地を見て、町の人々全てが標的ひょうてき以外の何ものにも見えなくなった。さながら、くつ習慣しゅうかんを全く持たない地域へ来た靴屋の様である。

「どうですか、私共わたくしどもの防犯グッズを購入してみませんか?」

 しかしそこは防犯意識が希薄な無人販売所の持ち主、防犯グッズを売ると言われても購買意欲こうばいいよくなど存在しない。

「この監視カメラはなんと、今なら通常の価格の半額でおゆずりします! いかがでしょうか?」

 しかし、無人販売所の持ち主や利用者は今一つピンと来ない。何せ防犯意識が希薄なのだから、こんな場所に監視カメラを付ける必要があるのかと首をかしげるばかり。

「それなら、こちらの刺股はいかがですか? 訓練をせずとも、誰でも強盗を捕らえる事が出来ます。なんとこちらの商品は、一ダースで五つ分のお値段に勉強させていただきます!」

 セールスマンが増々熱を帯びて大音声だいおんじょうを挙げるが、人々はやっぱりピンと来ない。何せ、無人販売所に強盗が来ると言う発想がまず出て来ないのだ。

 こうなると、セールスマンの方も意地になって来ていた。絶対にこの防犯意識の無い連中を啓蒙けいもうし、この地で商品をガンガン売りつけねばならぬ。

「では、こちらのガードマンロボットはいかがでしょうか? なんとこのロボットは一台あたりこれだけの値段ですが、今なら三割引きで、月単位のレンタルも承っております!」

 ここに来て、セールスマンの話を聞いていた人々の態度たいどに変化が起こった。人々は、白い筒状の胴体に液晶で顔が付いた、両手が在るべき場所には文字通りのロボットアームがついたガードマンロボットに目をかがやかせて見ているのだ。

「いいじゃないか」

「これは借りられるのか?」

「こんな子が販売所に居たら楽しそうじゃないか」

 セールスマンにとって、このガードマンロボットは切り札だった。何せこのガードマンロボットは監視カメラを兼ねた高性能センサー、強盗やひったくりを逃がさない百発百中の非致死性射出型スタンガン、単独で暴徒鎮圧ぼうとちんあつも可能にする催涙ミスト、防犯とカメラ機能きのうを兼ねそろえた強烈なフラッシュ、どんな変装も看破する人工知能搭載じんこうちのうとうさいレンズ、一度の充電で丸一日無補給で警備けいびを続けられる人間を超越したタフネスのバッテリー……その他合計七つの超強力防犯機能ちょうきょうりょくぼうはんきのうがあるのだが、これを説明するまでもなく、ガードマンロボットの外見だけで気に入られてしまうのは少々拍子抜けだった。

 無人販売所の所有者は周囲の人々の同調も有り、意気揚々とガードマンロボットのレンタル契約にサインをした。


 それから、ガードマンロボットは無人販売所の名物となった。ガードマンロボットの稼働中かどうちゅうの記録は逐一親会社に報告されているのだが、犯罪の記録は一件も存在しなかった。これには親会社も満足し、ガードマンロボットのお陰で犯罪が撲滅ぼくめつされたのだと喜んだ。

 何せ、最初から野菜泥棒などこの町には居なかったのだ。野菜の盗難とうなんなんて、起こる訳が無い。

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