第四百九十八夜『うちのチームが優勝した-moat-』

 2023/11/11「海」「橋の下」「最弱の高校」ジャンルは「ミステリー」


 地元の弱小高校が地区大会で優勝ゆうしょうした。

 これには学校はお祭り騒ぎになって、学生たちは大いに盛り上がった。盛り上がってしまった。

 生徒達は盛り上がった余り、お祭りモードで胴上げをし始めた。

 『胴上げくらいいいじゃないか!』そう言う人も居るだろうし、実際生徒達はそう考えていた。しかし胴上げはともすれば大きな故障の原因となる危険行為で、とても推奨すいしょう出来ない行為だと言える。

 胴上げに始まったパレード気分の大騒ぎだが、何せ彼らは弱小高校で優勝校なのだ。こんな程度で静まる訳が無かった。

 彼らは胴上げや行進をしつつ、校門のすぐ外、フェンスの奥の河川へとプールの飛び込みよろしく皆で飛び込もうと言う話になった。

「それはいい!」「名案だ!」「楽しそう」「飛び込もう、飛び込もう」

 彼らはそれが抜群に魅力的みりょくてきなアイディアに感じられて、熱に冒された生徒達は皆一様に河川へと飛び込んだ。

 季節は夏、天ではギラギラと太陽が照っており、水に飛び込んだら気持ちよさそうと言う環境だった事もあるだろう。生徒達は自分達のアイディアを実行するのに躊躇ちゅうちょは全く見られなかった。

 勿論、この様な蛮行を教師たちが黙っている筈がない。無いのだが、この事を咎めるには少々事態じたいの発見が遅かった。

 ある教師が急いで駆け付けた時には、もう生徒達は皆飛び込む瞬間だった。

 これには駆け付けた教師は怒るやら呆れるやら心配するやら、何せ学校は生徒達を預かっているのだからケガをさせる訳にはいかない。人間はともすれば足元程度の水深でもおぼれるし、遊泳に適してない水質の河川に浸かって傷口から何らかの感染症かんせんしょう罹患りかんする可能性だってある。事実、あの河川の水深はそこまで深くないし、底はぬかるんでいるし、ケガや病気のリスクが有る事には変わらない。

「何をしている! お前たちとっとと上がれ!」


 生徒達は河川に飛び込んだり、水を顔に掛け合ったり、ひとしきりふざけてから仕方が無しに教師の指示に従って陸に上がった。

「全く……見たところ誰一人欠けていないから良かったものの、お前たちに何かあったらと思うと……全くお前らは本当に……」

 教師が安堵あんどして言う様に、生徒達は誰一人欠けていなかった。この騒動そうどうに参加して河川に飛び込んだ生徒は総勢そうぜい三十六人も居たが、泥だらけでれたユニフォーム姿で河川から上がって来た人間は総勢だった。

 彼等がそのことに気が付くのは、もう少しだけ、先の事。

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