第四百九十九夜『ワーム呼び-Alien species-』

 2023/11/12「虫」「木の実」「激しい大学」ジャンルは「SF」


 ある日、その山の頂上付近に大量たいりょうのドングリがかれていた。

 その近辺にはブナ等の樹は生えておらず、専門家が言う事にはこの地点はどんぐりが生育しない標高だと言い。これは何者かの手で撒かれたのにちがいないと、人々はうわさした。

「全く、とんでもない事です!」

 山の所有者は生態系せいたいけい崩壊ほうかい懸念けねんし、インタビューに答えた。

 いわく、ドングリが万が一芽吹いて育ってしまっては、他の植物に栄養が行き渡らずに枯死してしまうかも知れない。ドングリを食べる動物が助長されてしまった結果、生態系の一極化して他の動物が絶滅ぜつめつするかも知れない。ともすればえさが増えた結果、山の動物が増えてしまい、増えた動物が食って行けずに人里に降りて畑を荒らすかもしれない。

 そんなこんなで、ドングリの撤去作業てっきょさぎょうを行なうハメになってしまった。山の所有者一人ではない、この山はハイキングコースとして人気のある場所であり、ボランティアで撤去作業を行なうと言ってくれる人も少なからず居た。ひょっとしたら山からイノシシやクマが降りて人里で百鬼蛮行をはたらくかも知れないのだ、近隣きんりんの住民も快く協力してくれた。

「全く、一体誰が何の目的でこんなことを……俺の休日を返して欲しいね」

 そうボヤくの近所に住む大学生。一家総出でボランティアをする事となり、休日返上でドングリの撤去作業をしている。本来なら友人間で集まって夕方から酒でも飲みながらどんちゃん騒ぎをする準備じゅんびの予定だったのだが、こうなったら予定変更、予定は未定、旅は道連れ、穴二つ。一緒に飲む予定の友人らも巻き込んで、とっとと作業を終わらせようと企てた。

「こんな事する奴の気が知れないな、そもそも何の目的でドングリなんてまき散らしたよ?」

「知らね、山に住んでる妖怪を餌付けでもしたかったんじゃない?」

「何だよ、それ? つまりは、犯人は常識じょうしきの無い奴ってところだな!」

 そう学友と軽口を叩きながらだと、憂鬱ゆううつな作業もさほど苦にならない。ボランティアの人々は雑談ざつだんをしながら撤去作業を終わらせた。

 程なくして目に見える範囲はんいではドングリは撤去が終わり、ちょっとやそっとの量では生態系に変化は無いだろうし、そもそもブナ等の樹が生育しない環境なのだから大きな問題は発生だろうと、ボランティアらは引き上げて行った。


 その日の夜の事だった。撤去されずに済んだドングリの一つに亀裂が入った。亀裂の入ったドングリの中からは、地球上のどこでも見た事が無い虫が這い出て来た。

 その虫は空っぽになったドングリの外へとすっかり全身をあらわにすると、山の木の実や葉っぱをみ始めた。

 この虫達がすっかり山を食い荒らし、卵を産むまでにかかる時間は……

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