第四百九十夜『非実在性毒薬の有用性に関する提言-Poison the Cup-』

2023/11/02「天国」「見返り」「無敵の時の流れ」ジャンルは「サイコミステリー」


 二人の青年が山の中、屋内でテレビを観たり新聞を読んだりしてくつろいでいた。時刻は夕方、夕方の報道番組の時間帯だ。

「なあなあ、クロロホルムをハンカチに含ませて嗅がせるってあるじゃん?」

「ああ、あるな」

 質問を受けた方の青年は新聞に目を通しながら、さもどうでもいい様子と態度たいどを見せた。

「あれって、あんなに簡単に眠るもんなのか? 俺みたいな素人がやったとしても、たちどころに眠るのか?」

「ああ、あれな。そもそもクロロホルムじゃ人はまず眠らないぞ」

「えっ?」

 質問をした方の青年はきょを突かれた様な表情を浮かべ、目を白黒させた。

「いやな、クロロホルムを布に染み込ませて素手で持ったとして、そしたらそいつは手を火傷やけどする。嗅がせて失神させるとなると、まず薬品を匂わせるために押し当てた部分に火傷を負わせる事になる。標的は痛くて眠るどころじゃないし、それで失神するのならそれは痛みの余りの失神で、意識を失うと言うより命を失う」

 質問をした方の青年は、相棒が滔々とうとうと語るのを聞き、おどろくやら失望するやらしている。

「出来ないのか……じゃあドラマやマンガはクロロホルムで失神させているんだ?」

「それは簡単かんたんな話だ、出来ないからフィクションでやってるんだ」

 質問をした方の青年は、質問をされた方の青年の言う事が理解出来ずに首を傾げてばかり。

「いいか? クロロホルムで人間を眠らせるなんて事は、土台出来ないんだ。言わば、不能犯とか不可能犯罪って訳だな。要するに、クロロホルムを使って人間を眠らせる行為は、描写したり放送しても許されるって事なんだ。何せ誰かがマネしても、絶対に成功しない訳なんだからな」

「ああ、なるほど。ようやく理解が行ったぜ。犯罪に利用できないからこそ、おおっぴらにテレビで流す事が許されているって訳だ」

 我が意を得たり。質問を受けた方の青年は、質問をした方の青年の言葉に満足そうな笑みを浮かべた。

「もっとも、フィクションの様に速やかに眠らせるのならば、それこそ現実に存在しない未知の薬品が必要だろうな」

 その時の事だった、テレビの報道官が新しいニュースを告げた。

『本日、XXX県で死体遺棄したいいきの容疑で捕まった男性が、殺人の疑惑で再逮捕されました。男性は『俺はクロロホルムで眠らせた後に海へ突き落そうとしただけだ! これは殺人ではなく、過失致死だ!』と主張をしており……』

 二人の青年はニュース番組をて、何とも言えない様な苦笑いを浮かべた。

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