第四百八十五夜『落とし物の指輪-the finger got burned-』

2023/10/27「電気」「指輪」「壊れた高校」ジャンルは「偏愛モノ」


 時は真夜中、消灯済みで全く人気の無い学校に一つの指輪ゆびわが降って来た。

指輪が降って来たのだから、持ち主は誰かと探す者、指輪が降って来たのなら火山に投げ込むべきだと軽口を叩く者、いやいや火山に放り投げた指輪がここへ落ちて来たのだと相槌あいづちを叩く者、そしてこんな不法投棄ふほうとうきをした輩は許すべきではないといきどおる者があった。

ただの指輪ならば、誰も怒りなどしなかっただろう。それもその筈、何故なら振って来た指輪は怪獣作品もかくやのビッグサイズだったのである。

形状が見慣みなれた物だから指輪と分かった物の、その接地で校舎が大破し、地面が陥没する大怪獣サイズの指輪だったのである。人気が全く無い時刻だったのは不幸中の幸いだった。

 となると、一体誰がこんな巨大な指輪の様な物を落としたかが疑問なのだが、人類にこの様な巨大な指輪の様な物は作る事も落とす事も、普通に考えたら酔狂でもなければやりはしない。故に野次馬達は火山からワームホールが開き、その影響えいきょうで肥大化しただの、きっと金属を膨張ぼうちょうさせる未知のウイルスだの、雷様がうっかり指輪を落としただの、そんなたわけた事を言い合っていた。


 一方その頃、虹の橋の向こうではある男が探し物をしていた。

その男は腰にを提げた偉丈夫で、立派なひげたくわえた武士もののふ然とした、本来ならば毅然きぜんたる男なのだが、しかし今は弱弱しく困惑した表情で探し物をしていた。

「無い! 無い! 無い! 婚約者シフに渡す予定の結婚指輪がどこかに消えてしまった!」

 彼はそう言ってなげくと雷鳴が発生し、さながら天が泣き喚いている様だった。

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