第四百八十三夜『サインポールの秘密-Enter the Infinite-』

2023/10/25「南」「窓」「残り五秒の城」ジャンルは「偏愛モノ」


 街角でサインポールがクルクルと回っていた。その様はまるで、上へ上へと色が吸い込まれていく様であった。

 この様な表現を用いると、『いやいや、サインポールは動力で回転するだけで実際に上へ上へと吸い上げられている訳では無いよ』と、そう反論する人も居るだろうが、実はそれは表向きの情報に過ぎない。実はサインポールの大半は無限の循環であり、素人に説明するさい端折はしょった結果そう伝わったに過ぎない。

 例えば東京や千葉ちばに存在したサインポールだが、このタイプの特徴とくちょうは宇宙空間から光線を送受信すると言う物。宇宙線や光線を送受信して様々な色を出力すると言う仕組みだ。もっともこれらのサインポールは採算が取れず、二〇一七年十月十日に閉店してしまい、現存する同モデルは全て稼働かどうをしていない。

 しかしこの宇宙から情報を送受信するタイプのサインポールそのものは、さして重要な事ではない。本命は異世界や並行世界から情報を受信し、そしてあちらへと情報を送るサインポールである。

 この交信型サインポールは従来の送受信型サインポールとはちがって画期的な物であり、送受信型サインポールと異なり現在も稼働をしている。その理由はいくつかあるが、従来の星間送受信は需要じゅよううすかったが、異世界や並行世界との交信であれば事情がまた異なる。かのエジソンも晩年は霊界との通信を発明すべく心血を注いだ事からも分かる様に、異界との交信は今も昔も未来に至るまで需要過多なのである。

 例えば、今私の目の前にあるサインポールは今やメジャーとなった交信型サインポールで、通信先は先述の通り一種の異界。サインポールのおおいを外して芯を掴めば異界へと到着し、そしてサインポールが直立した棒ではなく円を構成こうせいする事が分かる。

 しかし、コレは大変危険な行為なので諸君らは決してマネしてはいけない! 異界への動植物は様々な問題が発生するもので、例えばこの世界に存在しない動植物や微生物びせいぶつが根付いて生態系せいたいけいがイカレてしまっては大事だ。

 他にも、移送先のサインポールが震災しんさいに見舞われて瓦礫がれきの中で人体が一人入れるスペースすらなく、移送されたが最期、五秒も立たずに人体がミンチにされてしまう可能性だってある。同じ地球の北半球と南半球ですら大きく環境は異なるのだ、増してや異界など気軽に行くものではない。

 故に、サインポールの覆いは簡単には取り外せない物となっており、サインポールが常に稼働しているのはいざと言う時異界から緊急きんきゅうの伝達を待っている事に外ならない。

 言わばサインポールは一種の窓であり、サインポールが何事も無く稼働しているのは此岸しがんも彼岸も平穏無事だと言う事の証左と言えた。


「ママ、見て! 下から上に無限に回ってる!」

ちがうわよ。あれはサインポールって言って、斜めの線が回っているから上へ上へと吸い上げられている様に見えるだけよ」

 私はそんな親子の会話を聞きながら、サインポールの見えるテラス席に座りながら雑誌ざっしをゆっくりと読んでいた。

 恐らく私が生きている間、私が担当しているあのサインポールは異常を知らせる事は無いだろう。だから、あの親子の言っている事は事実と言っても相違が無いと強弁が出来よう。

 私はこの世とあの世の平穏を噛みしめながら、冷めて丁度いい温度になったコーヒーをすすった。

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