第四百七十五夜『猫が液体だと言う仮定に対する実験-heavy rain-』

2023/10/17「動物」「猫」「新しい運命」ジャンルは「SF」


 巷では度々猫は液体だと主張する声があり、なるほど実際に猫が液体であるかのような映像を目にした事がある。

 液体を『体積は一定であるものの形は容器に合わせて変化するもの』と定義するならば、なるほど猫は狭い隙間から入り込んで中で平たくなっている現象を見るに、猫は液体であると言えよう。

 ならば猫は液体であるかどうか、更なる実験をしたいところ。しかし猫を使って実験をすると言っても、ヘタな事をしたら動物愛護あいご団体に目をつけられてしまう。加えて言うと、僕自身も猫が好きな人間なので、猫を不当に扱う事は望むところではない。

 例えば猫は液体なのだから熱したら液体になって蒸発するなど、その様な実験をするなど言語道断。可愛い猫を燃やしたり、凍らせたり、害したり、そんな事をする事は僕には絶対出来ないし、そんな事をする様なやからは僕自身も許せない。

「どうにかして、猫を液体だと証明する記事を書けないものだろうか……」

 僕がそう愛猫をあやしながら呟いた時の事だった。

「よし、こちらに任せてください」

 耳元で声がした、うちには僕と猫しかいない筈にも関わらずだ。反射的にバッと横を向くと、クラゲの様な髪色と深海の様な色の瞳をした千早ちはや姿の女性が居た。

「君は一体……?」

「可愛い猫ちゃんだねー育ちがよろしい様で」

 千早姿の女性は僕の質問を無視し、僕の猫うちの子と戯れていた。

「おい君、何者か知らないがうちの子に触らないでもらえるか!」

 僕がそう言って千早姿の女性を咎めると、彼女はさびしそうな顔をしてうちの子からはなれた。

「うーん、仕方がない。じゃあ他の場所から猫を見繕みつくろうしかないか」

 そう言うと千早姿の女性は窓を開けて、そこから飛び出した。

「おい! ここは五階、それにそっちは河川!」

 水音がし、僕は先程の千早姿の女性が着水した事を悟った。

「何だったんだ……今のは?」

 僕はこの不条理な出来事を夢だと思い、忘れる様務めた。


 その翌日の事だった。その日は異常気象が発生した。

誰も気づかなかったが、異常気象の日の昨日は街からノラネコが残らず消えていた。何者かが猫を抱いて後ろ足で立たせる形で猫を伸ばし、伸ばし、伸ばし、猫は液体なのでそのままはるか上空まで伸びて行った。

 猫は雲の高さまで伸び、猫は液体なので雲の中に入り込んで取り込まれてしまった。

 雲の中に入り込んだ猫だが、そのまま雲の中から雨の様に降って来た。何せ猫は液体なのだから何もおかしくはない。

 これを見た人達は、きっとノラネコが台風に巻き込まれて振って来たのだろうと考え、珍しい事だとは思ったが、深く取り留める事はしなかった。

 何せ猫は液体なのだから、空から降って来ても何もおかしくはない。

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