第四百七十四夜『冒険者職業訓練レベル1-Adventurer's Mutual Aid Network-』

2023/10/16「土」「テレビ」「暗黒の目的」ジャンルは「指定なし」


「よし、決めた。俺は冒険者になる!」

 俺は自分で自分をあおる様に、口に出してそう言った。

 部屋では今まさにモニターに人気のダンジョン配信が流れている所であり、画面端には大量のが寄せられている事を示す数字が次々と表示されては消えていった。

 ダンジョン配信と言うのはつまり、危険な自然の洞窟どうくつや人喰い粘菌や非友好的亜人の巣窟の中にカメラの類を手に潜入せんにゅうし、その様子をリアルタイムで個人のチャンネルで放送すると言う放送だ。俺達視聴者しちょうしゃは、この様な血沸き肉躍る冒険の様子を観て、その一挙手一投足に歓声を挙げたり或いはお金を投じると言う形で放送を盛り上げるのである。

 俺はダンジョン配信をてすっかり冒険者と言う生き方に魅了みりょうされてしまい、自分も冒険者になってやろうと思い立った形になる。

 そうとなれば善は急げ、俺は早速冒険者になるための手続きをしに行く事にした。聞いた話では、なんでも冒険者職業しょくぎょう訓練所なる場所に行けば、誰でも簡単かんたんに冒険者になれるらしい。

 俺は浮き立つ軽い足取りでスキップをする様な足運びで、早速冒険者職業訓練所のある場所へと向かった。


 俺は椅子に座り、剣呑けんのんで大仰なサバイバルナイフを握らされ、目の前の段ボール箱に収まる形で座っている、生きた雄鶏おんどりと目と目が合っていた。

「はい、それでは配られたナイフで配った雄鶏を解体して、肉を取り出してください」

 いやいやいやいや! そんな簡単な事であるかの様に言わないでくれ!

 俺達の教官を務めている、先輩せんぱい冒険者らしい事務員風の女性はそう言うものの、俺達冒険者志望者は互いに互いを不安そうに目配せしたり顔色を伺ったり、顔から下を凍った様に動かせずにいた。

「みなさん緊張きんちょうなさらずとも大丈夫ですよー誰だって初めてはむずかしい物です。初めは解体が下手で、肉屋に並ぶような精肉に出来ないのは誰もが通る道です」

 いや、そう言う事を言っている訳ではないんだが……俺は何と言うかこう、冒険者と言うのは簡単に就く事が出来ると聞いて来た筈だ。

「それでは、先生が手本を見せますねー」

 そう言うと教官は、サバイバルナイフを逆手に握り、その雄鶏の首よりも大きい刃を素早くで当てたかと思うと、次の瞬間しゅんかんには雄鶏の首が綺麗きれいにスライドをする様に滑り落ち、首から鮮血を流し、けれども雄鶏は自分の死を理解したのか出来ないのか胴体はパニックを引き起こした様に走り出し、しかしそれも長くは続かずに糸がプツリと切れた様に崩れて動かなくなった。

 俺はこの恐ろしい光景を見て、舌の根から酸っぱい物がこみ上げそうになった。周囲を観ると、他の受講者達の中にはえずいたり、トイレに向って走り出したりしていた。

「んーダメですねー、冒険者と言うのは野生動物を殺したり、非友好的な亜人を殺したりしないといけないと言うのに……ですが安心してください、すぐにニワトリを綺麗に解体できるし、人間の子供の様な姿の敵対的な亜人も躊躇ちゅうちょ無く焼き殺せるし、敵性生物が焼け焦げて炭化する臭いをかいでも全く大丈夫になる様育て上げて見せます!」


 俺は冒険者職業訓練所の授業を不登校する事に決め込んだ。金銭的な損傷こそ無かったが、今回俺が負ったのは勉強代だったと思おう。

 俺は最初、冒険者と言う生き方を誰でも出来る、天性の才能で簡単に遂行出来て、ポンポンお金が入って来る物だと思っていた。しかしあの様な訓練を受けさせられて、すっかり考えは変わった。

『いやー粘菌スライムは良いですね、肉を切るより簡単に退治出来る!』

 モニターの中ではダンジョン配信者が魔杖まじょうから熱線ねっせんを照射する事で粘菌生物を焼き殺し、その体内から商業的価値のある鉱物を拾っては背嚢バックパックに集めていた。

 恐らくこの人も冒険者職業訓練所でニワトリの首を掻っ切り、ゴブリンやらコボルトを焼き殺す訓練を受け、それらを修めて冒険者になったのだろう。そうでなければ、先刻の様な発言が出て来るとは考えにくい。

 そう考えると、俺は途端とたんにダンジョン配信を行っている人達が急に恐ろしく感じられた。

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