第四百七十三夜『その人の所在-Over Sky-』

2023/10/15「虹」「犠牲」「悪の遊び」ジャンルは「ミステリー」


 ある遊覧船ゆうらんせんでの出来事、家族連れの客同士が歓談をしていた。

「うちのお父さん、今は海のどこかに居るの」

 そう言うのは無邪気で年端もいかない少女。彼女の父親は船乗りで、今は遠洋で仕事の最中らしい。

「うちのお父さんは海の底に居るんだ! 今もこの下に居るかも」

 そう語るのは、先程の少女と同じ年頃の同じく無邪気な少年。彼の父親は潜水艦せんすいかん乗りだ。

「ふーん、うちのお父さんは空の上に居るの」

 そう得意げに、虹のかかる空を指差して言うのは更に別の少女。彼女の父親は飛行機ひこうきのパイロットで、海より空の方がすごいだろうと、それとなくマウントポジションを取るかのような口調だが、周りの子供達は気にも留めず、すごいすごいとにわかに沸く。


 それを遠目に聞いていたのは、同じ船に乗っていた目つきの悪い悪人風の男が二人。その外見たるや、一言で言うと悪人面と言うよりも悪役風と言った方が適切で、まるで劇や映画に出て来る殺人犯の様。

「世の中には肝の据わった子供が居るなあ」

「ああ、あいつらはきっと将来大物になるぞ」

 二人の男は子供達の言葉を聞いて、何を勘違かんちがいしたのかそろって神妙な表情を浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る