第四百七十一夜『世にも恐ろしいビデオゲーム-Bad touch-』

2023/10/13「夜空」「リボン」「静かなカエル」ジャンルは「ミステリー」


 秋の夜長、ちょっとした連休の真ん中の出来事である。

秋の夜長と言うのは趣味しゅみをするのに最適であり、その男は部屋のコンピューターで番組を観ていた。

 番組の内容は動画配信サイトで、動画配信者がホラーゲームをプレイしてはホラークリーチャーが出現する度にワーワーキャーキャーと大仰なリアクションを取り、それを観ている視聴者が笑ったり一緒になっておどろいたりすると言う企画だ。


 画面の中では半裸に赤いリボンをハチマキの様に巻いた屈強な男性のプレイヤーキャラクターが短機関銃たんきかんじゅうかまえて薄気味悪うすきみわるい村を散策している。その時である、プレイヤーキャラクターの背後の死体が突然起き上がっておそい掛かり、配信者は心底肝をつぶした様な叫び声を上げる。

 配信者の叫び声の大きい事、ホラーゲームの立てる音楽や効果音や音声も聞こえず、半狂乱の様になった配信者はプレイヤーキャラクターに短機関銃をたせて起き上がった死体に銃弾を当てようとする。その姿を見て、番組を観ている男は苦笑いを浮かべた。

 ホラー作品において、死体一つが直接的な強敵である事は無い。強敵であるとしても、それが家族や知人の死体だと気づき、状況に葛藤かっとうや恐怖をするのであって、死体一つが屈強な最後の強敵なんて事はそうそう無い。故に配信者はろくすっぽ当たらない機関銃で何とか死体を退けさせて、プレイヤーキャラクターは散策に戻っていた。

 しかし安心したその瞬間しゅんかん、突如プレイヤーキャラクターが粘着質なロープの様な物で巻き取られてしまう。画面内の視界が三人称から一人称に切り替わり、プレイヤーキャラクターは今まさに巨大で醜悪しゅうあくなカエルのバケモノに捕食されかかっている事が分かった。

 これには配信者はまたしても半狂乱のパニック状態じょうたいに陥り、今度はプレイヤーキャラクターにナイフをに振り回させた。すると巨大で醜悪なカエルのバケモノは舌をゆるめ、これ幸いとプレイヤーキャラクターはカエルのバケモノにりを喰らわせ、カエルのバケモノは頭部が二つに割けて生命活動を終えた。

 この一連のゲームの様子を観て、番組を観ていた男は青ざめてコンピューターのウィンドウを閉じてしまった。何せ、あんなにも恐ろしくもおぞましい生物が好き勝手に跋扈ばっこし、キャラクターの命をうばわんと目を光らせているのだ。観る人が観れば卒倒しても仕方がない映像だったと言えよう。

「いやはや、想像を絶する様な恐ろしい配信だな」

 番組を観ていたカエル人間の男は、今しがた切った番組を思い返し、恐怖の余り歯の根が合わない様になっていた。

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