第四百六十五夜『大層な怠け者-the hard worker-』

2023/10/07「陰」「指輪」「最高の世界」ジャンルは「純愛モノ」


 ある所に大層たいそうな怠け者が居た。彼は、それはもう大層な怠け者で、常に自分がはたらかずに済む社会の到来を待ち望んでいた。

 ここで普通の怠け者だったなら、働かずに済む社会の到来を望むだけで何もしなかっただろう。しかし彼は大層な怠け者なのだ、怠ける事に関しては人一倍志が高いのだ。

 大層な怠け者は、自分が働かずに済む社会の到来を何としてでも待ちきれず、自分が働かなくても済む社会を自ら作ろうとした。具体的に言うと、労働者ロボットや召使いロボットに調理ロボットを開発し始めた。何せ彼は大層な怠け者なのだ、怠けるためには何だってする。

 彼の研究を見た周囲の人々は、不純な動機どうきだと叱責しっせきする者があり、どんな不純な動機であっても見上げた行動だとめ称える者、そんな事をしたら労働者がしょくを失うと非難する者、様々な反応を示した。しかし彼は大層な怠け者なのだ、名誉欲で動いている訳ではないし、モラルで動いている訳でもなく、強いて言うならモラールで働いているのである。野次の言う事など全く耳に入らないし、それで怠けられる訳でないなら毒にも薬にもなりはしない。


 こうして彼が開発した労働者ロボットだが、大雑把な作業を完璧かんぺきにこなす人足と言ったところだった。丈夫で頑丈、しかし人の手が無いと細かい作業は出来ず、四角い部屋を丸く掃く様な代物であった。付属ふぞくの指輪型デバイスを使って指一つで命令をする事は出来るが、細かい命令や気の利いた行動は出来ない。何せ機械きかいと言う物は機能を増やせば増やすだけ故障し易くなるのだ。彼に故障した機械を頻繁ひんぱんに直すだけの甲斐性など、どこにも存在する訳が無い、なにせ彼は大層な怠け者なのだから。

 これには世間は彼を大いに称賛した。何せ人手なんて物は有れば有るだけいい物だし、それに加えてロボットが実質として人の助けであって人の代わりになっていない、つまりロボットを導入どうにゅうしても人間の労働者全員の首を切ったら立ち行かなくなる。この塩梅あんばいは絶妙で、事前に彼の事を良く思っていなかった人間すら彼の事を褒め称えた。しかし彼は大層な怠け者なのだから賞賛の声を聞いても何とも思わず、この労働者ロボットが身の回りの仕事をしてくれる事、そして実用化されたロボットがとみをもたらしてくれた事に大いに満足した。


「ねえ見て! あの配膳はいぜんロボットカワイイ!」

「へえー、この店舗にも導入されたんだ。テレビでしか観た事無くて、実物は初めて」

 ある飲食店で女学生二人がメニューやトレーを運ぶ労働者ロボットを見てニワカに沸き立つ。

「ああいうロボットを作る人って、どんな人なんだろう? どこか様子のおかしい天才マッドサイエンティストかな? 渋い職人肌しょくにんはだの立派な博士とか?」

「さあ? ただ、真面目でやる気満々まんまんの人間じゃないとロボットなんて作れないんじゃないの?」

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