第四百六十夜『続・ただひたすらに手袋を-hand made-』

2023/10/01「夜空」「いけにえ」「増えるかけら」ジャンルは「ギャグコメ」


 涼しさを覚える秋の寒空の下、二人の青年が車道脇の歩道で、ただひたすらに手袋てぶくろを落としては歩き、手袋を落としては歩き、一定の距離きょり毎と言う訳でも無く不規則かつある程度の距離を設けてルーチン作業を行っていた。

 手袋の中身は中身が入っている様に張っていて、触覚からして固い何かが入っている様に感じられた。それは地面に落ちると、軽くて硬い音を立てて小さく跳ねた。手袋の中には、硬くて軽くて丈夫な何かが入っている様に見受けられた。

「なあ、これって何の意味があるん……」

 青年の片割れがそう疑問を口にしたところ、もう一人の青年が手で口を塞いでさえぎった。

「しっ! この仕事をけ負った時に口約こうやくしただろ? 手袋を落とす事の意義を詮索せんさくするなと」

 相棒のその言葉に、青年は眉間みけんしわを寄せて反論したがった。

「でもさあ、意味が分からないぜ……疑問に思うだけなら詮索にはならないよな? 詮索したり手袋を落として回る理由を知ると、バケモノでも出て来るのか?」

「いや、そんな事は無い」

「それじゃあ」

「きっとバケモノよりもずっと怖い奴がやって来ると、俺は思う。バケモノより怖いと言うより、現実的な刺客がやって来てお前の人生を終わらせるだろうな。具体的に言うと、候補は警察官けいさつかんやマフィアかヤクザか、まあそんなところだろうな」

 相棒の言葉に青年は背筋がてついた様になり、黙って何の疑問も口にせずに従順にある程度以上の感覚で手袋を落とし始めた。


 渡された手袋を全て、指定した範囲内はんいないの車道脇の歩道に、手袋の中身を開いたりせずに、持ち帰ったり落とし忘れたりせずに、そして手袋落としの意味を理解したり詮索する事を一切せずに遂行すいこうしろ。

 それが、二人の青年が請け負った仕事の全貌ぜんぼうだった。全貌と言うには余りにも隠された情報が多いが、それが全貌と言う他無い。

 うわさによると、前任者の中には好奇心に負けて中身を見ようとした者は口封じに殺され、同じく好奇心に負けて手袋を持ち帰った者は投獄とうごくされた上に獄中死したらしい、請け負った仕事を完遂出来なかった者はそのスジの人間に捕縛ほばくされて海の底へ投げ入れられたとも言われており、荒唐無稽こうとうむけいな物では指定されていない場所で誤って手袋を落とした結果、土地神とか妖怪としか呼べない様なお化けに喰い殺されたとか言われているらしい。

 うそか真か分からない、真っ赤な嘘だと断定したくなる様な内容ではある。しかし一つだけ確かな事は、言いつけを守れずに遂行できなかった場合は給金が発生しない事だ。

 二人の青年はキツく言いつけられ、結果として依頼人の仕事を完遂した。ただ手袋を落として回っただけとは思えない、色の付いた給金だったが、恐らくこれは口止め料も込みの含む値段なのだろうな。と二人はそう感じ取った。


 手袋落としの依頼を完遂した二人は車に乗って帰路に就いていた。

「……よもやと思ったが、さすがには無かったか」

「なあ、結局あのバイト何だったんだ? 目星がついているんだよな?」

 質問をした方の青年は怪訝けげんな様子で、何かをかんづいているらしい青年に尋ねる。

「さあな、俺は何も知らない」

「けどよう……」

 相棒が食い下がらない態度たいどに、質問をされた方の青年は少々困ったような表情をした。

「これはあくまで独り言だが、プラスチックの人形か何かを布にくるんで落とした時の音って聞いた事はあるか?」

「どうしたんだ? 急に」

「まあなんだ、ポカンと言う様な、軽い音がするんだ。ところで通行人が大量の手袋の中に、バラバラにしたマネキンか何かが入っているのを見たらどう思う?」

「そりゃあ、困惑こんわくするんじゃないのか? もしくは邪魔じゃまに思うんじゃないのか?」

 相棒の言葉に、質問をされた方の青年はほのかに笑みを浮かべた。

「そうだな。例えば警察官が探し物をしているさいに、全く関係ない手袋が落ちていまくっていたら迷惑だろうな……」

 二人の青年が乗っている車には、行方不明者と捜索そうさくを行なっている旨を報道がラジオから流れていた。

「まあ、アタリを引かされていたならば、この仕事からは手を切らせてもらう積もりだったけどな」

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