第四百五十九夜『奇病・裏-octopus’s arm-』

2023/09/30「楽園」「サボテン」「先例のない脇役」ジャンルは「サイコミステリー」


 酷く肝をつぶした。

 俺は頭を抱えた。

 腹を割って事態じたいの解決に努めるべきか。

 本当に手を焼く事態だ。

 手を切った積もりだが、何も終わりはしない。

 手を取ってくれる人は誰も居ない。

 もっとも、こんな事に食指が動く人間が居る筈もない。

 骨が折れる事態でこそないが、ひどい作業には変わらない。

 足が重い。

 遂には足が笑い始めた。

 目から火が出そうだ。

 俺は首を切った。


 警察署けいさつしょ内に二人の警察官が居た、刑事ドラマで見る様なベテランと若手の二人組だ。二人は自分たちの仕事や、検察の仕事について話していた。周囲にはその二人しか居らず、大声でなければ話をしても周囲にれる事は無い環境だった。

「この前???市でバラバラ殺人事件が有ったろ。被害者を何人も何人もバラバラにして殺して、ホシが心神喪失状態で見つかった奴だ」

「ええ、勿論覚えていますよ。『これで天国に行ける』とかブツブツ繰り返していた、気が触れた犯人でしょう? 僕は現場を見た訳じゃありませんけど、報告書を読むだけでも地獄絵図じごくえずとしか思えませんでしたから。思い出そうとしても忘れられませんし、今この瞬間しゅんかんも思い出しリバースしそうですよ」

「アレな、検視の結果DNAが一致した。体のパーツから、血液に至るまで全部だ」

「は? 検察は何をやってんですか! いや、だって、現場には腕や足が何本も落ちていて、しかも目玉がボロボロ落ちていたのでしょう!? そんなの信じられないし、これまで聞いた事も無いです!」

 若輩の警察官は声を荒げ、先輩の警察官に言った。声には困惑と糾弾の色が見られ、自分が正しくて相手が間違っていると確信した様子が見て取れた。

「俺も納得はしていない、と言うよりもしたくないんだが、これを見ろ。あの時の報告書の補遺ほいだ」

 先輩の警察官は若輩の警察官に書類しょるいを見せ、若輩の警察官は納得が出来ない様子で顔を歪めた。

「本当にそんな事あるんですか? 確かに書いてある通り、。だけど、犯人は心神喪失状態なのでしょう? 狂った犯罪者が死体の隠匿いんとくをして、損壊そんかい遺棄いきはたらいた。これで説明がつきますし、そもそもそんな死体が全部DNA一致するだなんて信じられません! 検査に妙なバグだか不具合か何かがあったと考える方が自然じゃないんですか?」

 言葉では冷静を装っているが、しかし態度は完全に怯え切っている若輩の警察官は及び腰で先輩警察官に言い放った。

「それなんだがな、俺はこう思うんだ。なんでホシは心神喪失状態に陥っているんだ? 何か気がくるう様な目にって、恐慌状態きょうこうじょうたいになってあんな事をしたんじゃないか? そしてDNAが全て一致したバラバラ死体だが、大量の手足と目玉はあるが、何故か胴体や頭が存在しない……落ちていた左手だけでも六本も有ったんだ、まさかガイシャは胴体や頭が存在しない六つ子だとでも言うのか?」

 先輩警察官の言葉に、若輩の警察官は怯えた様な態度を隠そうとせず、そして青ざめた顔でもくしていた。

 警察署の窓際には、水を与えすぎて先端せんたんがブクブクと珍妙な姿に膨れ上がって多肢状に育ってしまった多肉植物が飾ってあった。

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