第四百五十八夜『完璧に精巧なロボット-keep eyes!-』

2023/09/29「赤色」「兵士」「新しい高校」ジャンルは「指定なし」


 ある所に工業的なロボットを次から次へと開発している、行動力あふれるロボット開発者が居た。

 彼の開発するロボットは基本的に、どれもこれもが機械的きかいてき。ロボットアームはむき出しで、人間的なおおい等は施されていない。アニマトロニクスを作れと依頼を受けたら、皮膚ひふの無い機械のガイコツを作って寄越よこす。彼がデザインして作るロボットは、動いて機能きのうすれば良いだろうとでも言いたげに、それは無骨なデザインばかり。

 勿論それも一つの完成した仕事かも知れないが、そんな彼にも一機だけ例外が存在した。


 ある記者がアポを取り、ロボット開発者の仕事場を尋ねて来た。その時、その例外のロボットが彼の目に入った。

「ところでミスター、あなたが後ろに連れているその人型ロボットは一体何ですか? あなたの作品はどれも非生物的なデザインの物ばかりなので、珍しく感じますが」

「ふむ、このロボットには一つだけ仕事があり……何というかその、とにかく私には欠かせぬロボットなのだよ」

 そう言ってロボット開発者ははぐらかす様に言葉をにごす。彼の後ろには、確かに彼のイメージとはそぐわぬロボットがそこに居た。

 そのロボットは精巧な人間を模したロボットであり、目に映える真っ赤な軍服に機体を包んだ鬼軍曹の様なデザインだ。

 鬼軍曹型ロボットは何も言わずにロボット開発者の後ろに居り、まるで護衛ごえい監視かんしの任を受けた軍人の様に見える。

「ふむ、これは見た所護衛ロボットか、もしくは一種の監視カメラですか? それならば軍人の姿をしているのも納得です」

 しかし記者の言葉を聞き、ロボット開発者は苦笑いを浮かべて否定する。

「いえ、そんな大層たいそうな物じゃありませんよ」

「それでは何かのデモンストレーションですか? このロボットを見て、どれだけ人間と見間違まちがえるか記録を取っているのでしょう? 或いは新しく士官学校に導入される機材か何かでしょうか?」

 記者はロボット開発者を質問攻めにするが、しかし彼の表情は相変わらず芳しくない。

「いえ、このロボットは私個人が職場しょくばで使っているだけで、外に連れ出したりはしていません」

「ふむ、見当もつきませんね。どうかこの事は内密ないみつにしますので、私だけにご教授いただけないでしょうか?」

 記者はあの手この手でおべっかを使ったり言い寄ったりしたが、ロボット開発者は相変わらず鬼軍曹型ロボットについては貝の様に知らぬ存ぜぬを通した。


「ふう、本当にしつこい記者だったな」

 記者のインタビューが終わり、ロボット開発者は作業に戻った。すると鬼軍曹型ロボットは何も言わずに、ただただロボット開発者の背後を監視するかの様に後ろを歩いた。

「私は、こうやって誰かから監視してもらわないと怠けぐせが出るからな。一度自分で偽の監視カメラを用意したが、やっぱり人型ロボットでないと見張られている感覚にならない」


          *     *     *


 ロボット

 一、機械として組み立てられ、人間に似た種々の動作機能を発揮するもの。

 二、(比喩的ひゆてき)に他人に操られている人。


 スロバキア語の労働者ろうどうしゃを指す語、ロボトニークに由来する。

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