第四百五十五夜『流れて来た魔除けの果実-peach boy-』

2023/09/26「動物」「銅像」「暗黒の主従関係」ジャンルは「童話」


 川に洗濯せんたくに来ていたおばあさんの元に、川の上流から大きな桃が流れて来て、そこから生まれた男の子と言えば、皆さんご存知桃太郎だ。

 この後桃太郎は常人とは比べ物にならない怪力の持ち主として育ち、立派に育った桃太郎は悪い鬼のうわさを聞き、これを征伐しに行く。その道中でおばあさんから手渡されたキビ団子で犬猿キジをお供として従え、いざ鬼の本拠地である鬼ヶ島へ乗り込む。


 以上が桃太郎のあらすじなのだが、この桃太郎と言うおとぎ話は細部が時代や地域によってひどくマチマチなのである。

 まず、桃太郎が鬼ヶ島へ行くなりゆきもまちまちである。桃太郎の体格や肉体が頑強で、村一番の力持ちで有ると言う旨は大抵の桃太郎では省略されており、特別な出自でこそあるものの、誰よりも強い人間であると言う情報も無しに鬼ヶ島へ旅立ってしまう。

 鬼ヶ島へ着いた後の展開もバリエーションが豊富ほうふで、今日こんにちのパブリックイメージとは異なる言動の桃太郎も少なくない。

 ある桃太郎は鬼に酒を呑ませて退治し、ある桃太郎は鬼を大声で怒鳴りつけて降参させ、ある桃太郎は鬼達が戦意を失うまで言葉責めにし、ある桃太郎は「面白い、面白い!」と歌いながら鬼から略奪りゃくだつはたらくし、鬼に馬糞ばふんを投げる桃太郎も居るし、鬼をわざわざ針で刺す桃太郎も居て、鬼を石臼で磨りつぶす桃太郎まで存在し、投げ技をかけて鬼を海に投げる桃太郎が居れば、死なない程度に刀で痛めつける桃太郎も居る。

 この様に桃太郎のディティールは千変万化、ともすればあの手この手で鬼を執拗しつように思いつく手段を手あたり次第実行している残虐な人物とも映る。それこそ怪力乱神を大いに語り、鬼達を投げたり刺したり斬ったり潰したり糞塗くそまみれにする様子はまるで鬼達を拷問にかけている様。

 もしも私が桃太郎の作者ならば、これら全ての桃太郎は一人の人物だと言う事にし、これら全ての残虐行為を実行させた後、最後に以下の文を書いて鬼ヶ島での鬼退治のパートを終わりにするだろう。


 桃太郎は考えつく限りの全ての蛮行をやり尽くし、力無く倒れ尽くした鬼達を見て満足気な笑みを浮かべた。

「何が『角の無い鬼は鬼除けの果実の中に封印して、人界に追放する!』だ、これで誰が本当の鬼か分かっただろう?」

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