第四百四十一夜『カエルの声が聞こえて来るよ-a box of the frog-』

2023/09/11「春」「砂時計」「魅惑的なカエル」ジャンルは「童話」


 私には二つ悩みが有った。一つはうちの近所は田園地帯なのだが、夜になるとカエルが鳴いてうるさくて眠れないのだ。二つ目は(よく考えたら一つ目と本質は同じなのかもしれないが)私は朝に弱く、どうにも朝起きる事が出来ないのだ。

 カエルの鳴き声なんてかわいい物ではないのか? と、田園地帯に暮らしていない人はそう言うかもしれないが、あの騒々しくて途絶える事を知らない気分の悪くなる鳴き声は一度聞いてもらいたい。あれを知らずに済むと言うのは、それだけで一種の幸運と言えると思う。

 そこで私は閃いた。カエルの鳴き声がうるさくて眠れず、そして朝起きる事が出来ないならば、カエルの鳴き声を目覚まし時計にすればいいではないか!

 試しに家のカーテンを防音仕様の物に替え、そしてあのおぞましいカエルの鳴き声を音声データに取り、目覚ましに鳴る様にしてみたところ、思った通り私は見事朝起きる事に成功した!

 気分の悪くなる苦手な鳴き声と言うのも、使い方次第と言う訳だ。人類の叡智えいちの勝利である、ざまーみろ!


 それから毎日、私は夜は安眠する事が出来るし、朝はスムーズに起きる事が出来た。何せあの身の毛がよだつ様な鳴き声を止めなくてはいけないため、目も覚めると言う訳だ。

 私はこれまでの生活がうその様に、良い気分になってベッドに入った。


 ある夜、異常気象が起こった。嘘の様な常識じょうしき外れの寒波が訪れ、田畑は凍りつき、カエルや虫も一緒に凍りついてしまった。

 被害は田畑だけでなく住民の身にも及び、近隣きんりんの住民は凍えてしまい、救助部隊が派遣はけんされる事態じたいに発展した。

「もしもし! 大丈夫ですか!?」

「……返事無し。止むを得ん、窓を叩き割って要救助者を救出する!」

 ガラスが砕ける音がして、重装備の救助部隊員達が住宅に侵入する。

「これはひどい……人間に霜が張り付いて、冬眠状態になっている」

「一体こんな異常事態がいつまで続くのでしょうね?」

 疑問を呈した隊員に対し、隊長格らしい隊員が冷静な様子で答える。

「何、気象庁の見立てではこの異常気象も来月には終わるらしい。氷雪が溶けてカエルの声が聞こえる様になったら、皆正常な生活に戻って来られるさ」

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