第四百三十四夜『砂の中、閉じた世界-sand up-』

2023/-9/03「砂漠」「井戸」「最悪の記憶」ジャンルは「大衆小説」


 砂を掃く。俺はただ、元の生活を取り戻すためにこの白い砂を掃き続けている。

 俺の土地には立派な家と井戸と家畜小屋があるのだが、この土地には不規則に砂嵐が吹く。砂嵐が吹いた後には全てが白い砂におおわれてしまい、俺はこうして砂を掃いているのだ。

 幸い井戸は基本的にふたをしているし、家も馬小屋も戸を閉じれば砂嵐の影響えいきょうはこっぴどくは受けない。幸い一度も体験した事はないが、きっと井戸の蓋を忘れたり、蓋をするひまも無く砂嵐が訪れたならば、きっと井戸の中に砂が入り込んで大変な事になるだろう。

 俺はここ以外の生活を知らない。ここ以外での生活なんて考えた事も無いし、ここ以外の土地での生活が上手く行くとも思えない。俺はこの土地で生まれて、ここを見捨てることは出来ず、ここにしばられ、ここで死ぬのだ。

 そう考えていると、視界の隅の方で白い砂がかべを形成する様に立ち上がり、天を覆おうとしているのが見えた。砂嵐だ!

 俺は急いで家の中に避難ひなんし、砂嵐を過ぎるのをただ待った。井戸にも家畜小屋にもしっかり蓋をしてあり、不備はない筈だ。家の中も窓と言う窓には窓蓋をしているため、外の様子をうかがう事は難しいが、これで家の中に白い砂が入って来る事は無い。事実として、家の中に白い砂が入った事は一度も無い。

 俺はただただ家の中で息を殺してうずくまり、砂嵐が止むのを待った。


 家の中で子供がスノードームを振り回していた。親もその場に居り、その様を微笑ほほえましい物を見る様子で見ていた。

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